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クシム外伝ー本編では語れなかった真実ー  作者: 勇氣
第一章神殺し編

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第十九話真実

月神教徒の残党は、森の奥に集っていた。


焚き火の光の中、白衣の女が立つ。


「来るわよ。神剣の子が」


クシムは迷いなく踏み込んだ。


「抵抗するな。これ以上、血は見たくない」


女は笑わない。


「その剣が、何をしてきたか知っているの?」


クシムの眉が動く。


「月神教は世界を壊そうとしている」


「逆よ」


女は胸元の紋章を握る。


「私たちは“封じている”の」


空気が凍る。


「何をだ」


「神剣を」


その瞬間、イムフルが強く脈打った。


頭の奥で何かが軋む。


「……黙れ」


クシムの視界が赤く染まる。


女は一歩も退かない。


「あなたは聞こえなくなったのでしょう? 声が」


アルリムが息を呑む。


「兄さん……?」


「神剣はね、“選んでいる”んじゃない」


女の声は静かだった。


「削っているのよ」


世界が、止まった。


「魂を」


イムフルが叫ぶ。


今度ははっきりと。


——殺せ。


クシムの脳裏に、過去の戦場が走馬灯のように流れる。


あのとき感じた“楽”。


あれは自分の感情ではなかった。


剣が流し込んでいた。


「あなたが月神教徒を斬るたびに、封印は弱まった」


女は言う。


「神剣は古い存在。世界を守るために作られた。でも長い時の中で、目的が歪んだ」


——力を。


——もっと。


イムフルが囁く。


「あなたの戦闘意欲が落ちたのは、あなたの魂が摩耗しきったからよ」


アルリムが叫ぶ。


「兄さん! 剣を離せ!」


クシムは、笑った。


瞳に光がない。


「……そうか」


イムフルが光を放つ。


「だから、足りないんだな」


女が息を呑む。


「まさか……」


クシムが踏み込む。


地面が砕ける。


一瞬で三人が吹き飛ぶ。


アルリムが剣で受け止めるが、衝撃で膝をつく。


「兄さん、やめろ!」


「邪魔をするな」


声が重なる。


クシムと、もう一つ。


低い、異質な声。


「封印など要らぬ」


森が揺れる。


空がひび割れたように歪む。


女が叫ぶ。


「それが本体よ! 神剣は器! 本体は“戦争”そのもの!」


イムフルの刃が黒く染まる。


クシムの背後に巨大な影が立ち上がる。


それは剣の形をしていなかった。


無数の刃。


無数の叫び。


歴代の“選ばれし者”の残滓。


「兄さんッ!!」


アルリムが飛び込む。


だが、クシムは振り払う。


弟の身体が木に叩きつけられる。


血が落ちる。


その赤が、視界に入った瞬間。


クシムの中で、何かが止まる。


「……アル、リム?」


イムフルが叫ぶ。


——戦え。


——壊せ。


——世界は争いを望む。


クシムの手が震える。


「黙れ」


——お前は空だ。


——俺が満たしてやる。


クシムの膝が崩れる。


「俺は……」


アルリムが、血を吐きながら笑う。


「兄さんは……剣じゃない……」


静寂。


イムフルの光が、揺らぐ。


月神教の女が立ち上がる。


「選びなさい。剣か、自分か」


クシムは、ゆっくりと剣を見る。


初めて。


愛情でも、信頼でもなく。


敵を見る目で。


「お前の声が聞こえなくなったんじゃない」


イムフルが脈打つ。


「俺が、お前を聞かなくなったんだ」


刃が、ひび割れる。


絶叫が森に響く。


空の歪みが消える。


光が砕け散る。


神剣イムフルは、音を立てて折れた。


完全な沈黙。


クシムはその場に崩れ落ちる。


女が呟く。


「……封印は、まだ終わっていない」


アルリムがかすれた声で言う。


「どういう意味だ」


女は折れた剣を見つめる。


「器を壊しただけ。本体は、まだこの世界にいる」


クシムはゆっくり顔を上げる。


目に光が戻っている。


だが今度は——


神に選ばれた光ではない。


人間の光だ。


「なら」


彼は折れた刃を拾う。


「今度は俺の意思で戦う」


月神教の女が問う。


「私たちと?」


クシムは答えない。


ただ、血のついた地面を見つめる。


「俺が暴れた罪は、俺が背負う」


森の奥で、何かが笑った。


剣ではない。


もっと古い、もっと深い何か。


戦争は、まだ終わらない。

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