2-1
……次の日。
ピンポーン
棗は301号室のインターフォンを押す。
「おーい、転校生クン起きてるか?」
……インターフォンの音で、悠真は跳ね起きる。
「……誰だ?」
悠真がドアを開けると、そこには棗が立っていた。昨日と同じ制服を着て、笑顔を浮かべている。悠真は一瞬、言葉を失った。
「……なんで、ここに」
ぎこちない口調で尋ねながら、悠真は棗を見つめた。朝からこんなに近くに棗がいることが、悠真の胸をざわつかせる。
昨夜、殺そうと何度も考えた相手が、今は笑顔で自分を誘っている。
「ああ、一緒に学校行こうと思って」
「……分かった。少し、待ってろ」
悠真は部屋に戻り、制服に着替えた。鏡を見ると、自分の顔がいつもより疲れているように見える。昨夜の葛藤が、そのまま表情に出ていた。
カバンを持って部屋を出ると、棗がまだドアの前で待っていた。
「……悪い。待たせた」
「いや、大丈夫だ。行こうか」
バス停までの道を棗は悠真の前を歩きながら、ぽつりと呟く。
「転校生クン、あんま眠れなかったって顔してる。まあ転校してきて2日目だもんな。慣れない環境で疲れてるだろ」
悠真は棗の後を黙って歩きながら、その背中を見つめていた。
慣れない環境……棗はそう言ったが、本当の理由は違う。
昨夜、悠真は何度も棗を殺すシミュレーションをしていた。窓から侵入する方法、音を立てずに殺す手順、死体の処理、全てを頭の中で繰り返した。
しかしその度に、棗の笑顔が浮かんで手が止まった。
「……ああ、そうだな」
悠真は短く答え、棗との距離を一定に保ちながら歩いた。朝の空気が冷たく、悠真の頬に触れる。しかし悠真の胸の中は、妙に温かかった。
棗が自分を迎えに来てくれた。その事実が、悠真の中で何かを溶かしていく。




