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放課後。
悠真は自分の席で教科書をカバンにしまいながら、横目で棗を観察していた。
彼はまたクラスメイトに囲まれている。笑い声が教室に響く中、悠真は無表情のままその光景を見つめていた。
昼休みの会話が、妙に頭に残っている。棗の笑顔、声、そして「面白い」という言葉。悠真の胸の中で、温かい感覚がまだ消えていなかった。
悠真は立ち上がり、教室を出ようとする。しかし足が、勝手に棗の方へ向いていた。無意識に、棗の近くに行こうとしている。
「…水鏡」
悠真は棗の背中に声をかけた。周囲のクラスメイトたちが一斉に悠真を見る。視線を集めることは任務において不利だと理解しながらも、止められなかった。
「家はどっち方面なんだ」
「ああ、私は夢見アパートに住んでるから……こっちかな」
「そうか。お前も夢見アパートか」
「えっ?もしかして転校生クンも?」
「ああ。帰り、一緒でいいか?道がまだよく分からない」
……嘘だった。転校前に周辺の地図は全て頭に入れている。組織に用意された仮の住居。底が棗の住まいだということを知った上で、意図的に配置されたものだった。
「成程な。実は夢見アパートまではバスで直通で行けたりするんだ。おいで、一緒に乗ろうか」
ちょうどいいタイミングでバス停にバスがやってくる。棗は悠真に手招きしてバスに乗りこみ、悠真もそれに続く。
窓際の席に座った棗の隣に、悠真は自然と腰を下ろした。
「あっ、窓際が良かった?代わろうか?」
「いや、問題ない」
バスが動き出すと、窓の外の景色が流れていく。悠真は無言でそれを眺めながら、横目で棗を観察していた。
「……アパートにはどのくらい住んでる?」
悠真は棗に視線を向けながら質問した。情報収集のための質問だ……そう自分に言い聞かせながら。しかし本当は、ただ棗の声が聞きたかっただけなのかもしれない。
バスの揺れに合わせて、悠真の肩が棗の肩に触れそうになる。悠真は慌てて身体を離した。
「うーん、生まれた時からかなあ。母さんと二人暮らしだったんだけどさ。最近帰ってこなくて。全く、何処で何してるんだか」




