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最後の標的  作者: 有氏ゆず
第一話 出逢い
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1-4




昼休み。


棗は友人たちと弁当を広げようとして、カバンを開け……一言。


「……あ、弁当持ってくるの忘れた」


数秒の沈黙のあと、棗はケラケラと笑った。

それにつられて、クラスメイトたちもどっと笑う。


「おいおい!今気づくかよ!」

「悪い悪い!購買行ってくる!」


財布を片手に、棗は軽やかに教室を飛び出していった。




悠真は自分の席で、持参した簡素な弁当を開いていた。

中身は栄養バランスのみを考えた無機質な食事……組織が用意したものだ。


棗が笑いながら購買へ向かう背中を、無表情のまま見送る。

そして、その姿が教室から消えた瞬間。


悠真は静かに立ち上がった。


「……チャンスだな」


低く呟き、棗の後を追う。


昼休みの廊下は人で溢れている。

だが、人混みの中だからこそ“事故”は起こしやすい。


そう、計算していた。




購買前。

列に並ぶ棗の背後へ、悠真は自然な動作で近づく。


右手がポケットの中で、小さなナイフの柄を捉えた。一瞬で、頸動脈を────




────しかし。


棗がふいに振り返る。

その紫色の瞳が、まっすぐに悠真を捉えた。


「……っ」


悠真の動きが、止まった。


無言のまま、右手をポケットから引き抜く。

そこに、ナイフはない。


そして、足元がもつれ、そのまま────




「危ない!転校生クン!」


倒れかけた身体を、棗が間一髪で支えた。


「……悪い」


そう口にしながら、悠真は気づく。

心臓の鼓動が、普段よりわずかに速い。


(……なぜ、躊躇した)




「いや、キミが無事でよかったよ。それより……」


棗は何事もなかったかのように笑う。


「キミもお弁当を忘れちゃったのかな、転校生クン。ここのパン、なかなか美味しいぞ。私のオススメは……カレーパンだな」


そう言って、カレーパンと焼きそばパン、それにデザートの苺を手に取る。


その笑顔を見て、悠真は一瞬だけ視線を逸らした。鼓動は、まだ速いままだ。


(何故だ。今まで五人を殺した時、こんな感覚はなかった)


「……カレーパン、か」


棗の勧めに従い、悠真はカレーパンを一つだけ手に取る。他は何も取らない。必要最低限の栄養さえ摂取できれば、それでいい。




会計を済ませ、並んで購買を出る。


廊下を歩きながら、悠真は横目で棗を観察していた。あの紫色の瞳に見つめられた瞬間、手が動かなくなった。


「……よく、弁当を忘れるのか?」


ぎこちない会話。

任務のための情報収集……そう言い聞かせながら。


だが、悠真の中では別の感情が、確実に芽生え始めていた。この標的は、今まで殺してきた五人とは違う。


……それが、悠真を躊躇させた。




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