5-1
次の日。
悠真と共に、棗は学校へやってきた。
すぐにクラスメイトに囲まれ、昨日は何故休んだのかと聞かれる。
「あはは!心配かけて悪いな。ちょっと体調不良だったんだ。でももう、元気だからさ」
棗は笑顔で答える。
それが嘘だということは、悠真だけが知っていた。自分だけが棗の秘密を知っているということに、悠真は密かに優越感を覚えていた。
そして……9月10日(金)
悠真は教室の自分の席に座り、クラスメイトとの昼食を楽しんでいた。転校してから10日が経ったが悠真は少しずつクラスに馴染んできた。
(……水鏡が居なければ、ここまで馴染めなかったな)
悠真は棗の方を見つめた。棗はいつものように、クラスメイトと楽しそうに会話している。その姿を見るたびに、悠真の胸の中で温かい感覚が広がっていく。
(……いや、俺は何を考えている?)
馴染む必要なんてない。棗を殺すことが彼の任務で、それが終われば"朝倉悠真"は消える。
また組織に戻り、また別の偽名を与えられて任務をこなすだけだ。
「転校生クン!一人で食べてないで皆で食おうぜ!こっちこっち!」
悠真がそんなことを考えているとは露知らず、棗は手招きする。
「……ああ」
悠真は棗の声を聞いて、顔を上げた。そして立ち上がり、弁当を持って棗のいるグループに近づいた。クラスメイトたちが悠真を迎え入れ、輪が広がる。悠真は棗の隣に座り、小さく頷いた。
「ありがとう、水鏡」
悠真は小さく呟き、棗の方を見つめた。棗はいつも、悠真をこうやって誘ってくれる。その優しさが、悠真の心を満たしていく。
周囲の笑い声、棗の声、そのすべてが悠真にとってかけがえのないものになっていた。
「水鏡さあ、お前いつまで転校生呼びなんだ?」
「そうだよ水鏡くん。いつも一緒に行動してるんだし、そろそろ名前で呼んであげてもいいんじゃない?」
クラスメイトにそう言われ、悠真は思わず箸を止める。
そういえば、棗はずっと悠真のことを"転校生クン"と呼び続けていた。悠真からしたらもう慣れたものだったのでそこまで気にしていなかったのだが。
「あー……そうだよなあ。何か慣れちゃってて」
でも、誕生日に自分を元気づけてくれた上にそのことは誰にも話さないでいてくれる彼のことをいつまでも転校生呼びするのは、流石に棗とて憚られた。
「……じゃ、朝倉クンで」
何となく、名前呼びするのは照れ臭かったので苗字呼びすることにする。
「……ん、それでいい」
朝倉悠真は今回限りの偽名で、思い入れなど無かったはずなのに、棗に呼ばれるだけでその名がとても特別なもののように悠真は感じられた。
「そういや明日なんだけどさ」
クラスメイトの一人が話しかけてくる。
「9月誕生日の連中を祝うためにボウリングでも行かないかって話をしてるんだけどよ。水鏡は当然来るよな?9月誕生日だもんな」
その言葉を聞いて、棗は驚いたように目を見開く。
「え、そりゃ行くよ!もちろん!」
「……良かったな。祝ってもらえて」
悠真は少し、表情を緩めて棗を見る。誕生日のことで棗が寂しい思いをしなくて良かった、と思っているのだ。
「朝倉クンも来るよな?」
「ああ、行く」
その言葉には、迷いがなかった。もう彼は棗との時間を最優先にしていた。任務のことは、後回しでいい。今はただ、棗と一緒にいたい。
その想いだけが、悠真の心を支配している。
(……まだ、期限には余裕がある。焦らなくていい)
それは、精一杯の言い訳だった。
「……ボウリングは、やったことがない。教えてくれるか?」
「ああ、もちろんだ!」
悠真の言葉に、棗は笑顔で答えた。




