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最後の標的  作者: 有氏ゆず
第四話 誕生日
30/39

4-8




濡れた頬。赤い目。噛みしめた唇。


それでも棗は笑おうとしていて……その努力が痛すぎて、悠真はもう耐えられなかった。




「水鏡……」


悠真は棗を抱きしめた。

強くはない。壊れ物を扱うみたいに、慎重に。けれど決して離さないように。


「……っ」


棗の身体が一瞬硬直する。

拒まれるかもしれない、そう思った。だけど、それでも腕を解くことは出来なかった。


次の瞬間、棗の喉から小さく息が漏れる。


「……何だよ、それ……」


棗の言葉に、悠真は答えられない。

答えたら、戻れなくなる気がした。


でも、胸の奥にあるものはもう誤魔化せなかった。






(友達だから?)




違う。




(守りたいから?)




それだけじゃない。






棗の涙が、悠真の制服に染みていく。

その熱が、布越しに、胸の奥まで届いてくる。


悠真の手は震えていた。

本来なら、ポケットの中のナイフに触れて落ち着くはずなのに……今日は、それに触れることすら出来ない。

触れたくなかった。


……ただ、この温度だけを失いたくなかった。


悠真は気づく。

自分が今どんな顔をしているか分からない。

けれど棗を失うことを想像しただけで、息が止まりそうになる。






(……好きだ)






それは静かな、確信だった。

その感情に名前をつけた瞬間、もう戻れないと分かった。


悠真は棗を抱きしめたまま、目を閉じる。

棗の震えが、腕の中で少しずつほどけていく。


「……大丈夫だ」


それだけを、繰り返すように呟いた。

自分に言い聞かせるように。

棗を繋ぎ止めるように。


夕暮れの公園で、棗の泣き声だけが小さく響いていた。




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