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濡れた頬。赤い目。噛みしめた唇。
それでも棗は笑おうとしていて……その努力が痛すぎて、悠真はもう耐えられなかった。
「水鏡……」
悠真は棗を抱きしめた。
強くはない。壊れ物を扱うみたいに、慎重に。けれど決して離さないように。
「……っ」
棗の身体が一瞬硬直する。
拒まれるかもしれない、そう思った。だけど、それでも腕を解くことは出来なかった。
次の瞬間、棗の喉から小さく息が漏れる。
「……何だよ、それ……」
棗の言葉に、悠真は答えられない。
答えたら、戻れなくなる気がした。
でも、胸の奥にあるものはもう誤魔化せなかった。
(友達だから?)
違う。
(守りたいから?)
それだけじゃない。
棗の涙が、悠真の制服に染みていく。
その熱が、布越しに、胸の奥まで届いてくる。
悠真の手は震えていた。
本来なら、ポケットの中のナイフに触れて落ち着くはずなのに……今日は、それに触れることすら出来ない。
触れたくなかった。
……ただ、この温度だけを失いたくなかった。
悠真は気づく。
自分が今どんな顔をしているか分からない。
けれど棗を失うことを想像しただけで、息が止まりそうになる。
(……好きだ)
それは静かな、確信だった。
その感情に名前をつけた瞬間、もう戻れないと分かった。
悠真は棗を抱きしめたまま、目を閉じる。
棗の震えが、腕の中で少しずつほどけていく。
「……大丈夫だ」
それだけを、繰り返すように呟いた。
自分に言い聞かせるように。
棗を繋ぎ止めるように。
夕暮れの公園で、棗の泣き声だけが小さく響いていた。




