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最後の標的  作者: 有氏ゆず
第一話 出逢い
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1-2




悠真は差し出された手を一瞬見つめ、わずかに躊躇したあと、無表情のままその手を握り返した。

握力は適度で、そこには機械のような正確さがあった。


「……水鏡、か」


悠真は棗の顔をじっと観察する。

標的の顔写真は何度も見てきたが、実物には写真にはない“温度”があった。

その微笑みに、ほんの一瞬だけ視線が揺れる。


すぐに手を離し、自分の席へと腰を下ろす。

カバンから教科書を取り出しながら、悠真は横目で棗の様子を伺った。


……任務遂行のための観察だ。

そう自分に言い聞かせる。




(しかし、標的の性別は女だと聞いていたが)


目の前の棗は男子用の制服を着ており、声も低い。中性的な外見で……女性と言われれば、そうも見えなくはない。


(資料のミスか?それとも……標的を間違えた?)


「……どうしたんだ?人のことをじっと見つめて。もしかして私に惚れたか?」


棗がニヤニヤとしながら悠真を見る。


「おっ、水鏡。ついに男まで虜にしたか?」

「水鏡くん、かっこいいもんね」


クラスメイトたちが囃し立てる。


(……水鏡“くん”。やはり、周囲からは男として扱われているのか)


悠真は頭の中にインプットされた標的の資料を思い返す。間違いなく、性別は“女”と記されていたはずだった。




「……水鏡。お前の性別は」


その言葉が口をついた瞬間、教室がしん……と静まり返った。

まるで、触れてはいけない禁句でも発したかのように。




「……ぷっ、あはははは!ド直球だな、キミは!」


一瞬の沈黙のあと、棗は腹を抱えて笑い出した。


「私は生物学的には女だ。だが、どうやら身体を取り違えて生まれてきたらしい」

「……つまり、身体は女で、心は男だ。そういう認識で問題ないか」

「本当にド直球だな。まあ、陰でコソコソ言われるより、よっぽど素直で私は好きだけどな」


ケラケラと笑ったあと、棗はもう一度、右手を差し出した。


「……ま、そういうことだ。皆も事情を知った上で私を受け入れてくれている。キミも、私を男として接してくれたら嬉しい」

「……分かった。この学校のこと……お前のことも、色々教えてくれ」


声は淡々としていたが、それは会話を続けるための最低限の努力だった。




……一か月以内に殺す相手と、こうして日常会話を交わす。悠真にとって、それは生まれて初めての経験だった。




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