表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最後の標的  作者: 有氏ゆず
第四話 誕生日
29/39

4-7




悠真は少し迷ったが、座らずに立ったまま棗を見下ろした。


「……何故学校に来なかった。何故こんなところにいる。理由を言え」


詰めるような口調になってしまった。自分でも分かっているのに、止められない。

棗はベンチに座ったまま、肩をすくめる。


「……そう焦るなよ。ちゃんと話してやるからさ」


軽口のはずなのに、声にいつもの勢いがない。

悠真の胸の奥が、嫌な形で冷えた。




……しばらく沈黙が落ちる。

風が吹いて、棗の黒髪が揺れた。


「……私のさ、父親の話なんだけどな」


ぽつり、と棗が呟く。


「……父親?」


悠真が聞き返すと、棗は小さく頷いた。


「偉い人。すごく偉い。……だから、愛人と作った子供である私は表に出せない」


淡々とした声なのに、どこか崩れそうだった。


「月に一回だけ会うんだ。生活費を渡されて、帰る。それだけ」


棗は天を仰いで、乾いた笑いを漏らす。


「今日も、それだった。……いつも通り」


指先がきゅっと握られる。

握りしめた拳が、わずかに震えていた。


そして、棗は息を吸って……吐いた。




「……でもさ。今日、誕生日だったんだよ」


声が小さくなる。まるで言ってはいけないことを、口にしてしまったみたいだった。


「言わなかった。言えなかった。……言ったら惨めになる気がしたから」


棗は笑おうとした。でも、笑えない。笑顔を貼り付ける余裕が、もう残っていなかった。


「別にプレゼントなんかいらなかったんだ。ただ一言でよかった。『おめでとう』って。……それだけでよかったのに」


語尾が震える。

棗は唇を噛んで、続けた。


「……忘れてたんだよ。父親なのに。あの人、私の顔を見ても……何にも思わないんだ」


棗の目がじわっと赤くなる。泣かないように堪えているのが、悠真には痛いほど分かった。


「……笑えるよな。クラスじゃ"面白い水鏡くん"で通ってるのに、こんなことで……」


そこで、棗の声が途切れた。

喉の奥が詰まったみたいに、息が止まる。




「…………ぁ、」


一滴、落ちた。


最初はそれだけだった。

でも、その一滴が引き金になって、次が止まらない。


「……っ、最悪……」


棗は顔を覆う。肩が震え、呼吸が乱れる。


悠真はその姿を見た瞬間、頭の中が真っ白になった。何か言わなければと思うのに、言葉が出ない。




「……水鏡」


名前を呼び、悠真は一歩近づく。

そして棗の前に膝をついて、無理やり目線を合わせた。


「見るな……」

「無理だ」

「見ないでくれ。頼むから……」

「嫌だ。お前が泣いているのは……つらい」


言った瞬間、胸が痛んだ。

心臓がうるさいほど鳴っている。止め方が分からない。


悠真は棗の手首を掴み、そっと引いた。

顔を覆う手を外させる。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ