4-6
放課後の校門は、いつもより騒がしかった。
部活の掛け声、笑い声、誰かの名前を呼ぶ声。
その全部が、悠真には遠く聞こえる。
棗がいないだけで、世界の音が薄くなる。
今日一日、隣の席は空っぽだった。
クラスメイトの「体調不良じゃね?」という軽い言葉が、ずっと胸の奥に刺さったままだ。
帰り道。
バスを降りた悠真は、夢見アパートへ向かう足を止めた。帰るのが怖かった。
202号室の呼び鈴を押して、扉が閉まったままだったら。それだけで、自分が何をしでかすか分からない。
だから、遠回りするみたいに、駅前の方へ歩いた。
理由なんてなかった。ただ、棗がどこかにいる気がして……探したかった。
夕方の風が冷たく、雲の隙間から細い光が落ちている。
街の端、古い公園の前を通りかかった時だった。
ベンチに、誰かが座っているのが見えた。
黒い髪。
背中を丸めて、膝に肘をついている。
肩が、ほんの少し震えている。
「……水鏡」
悠真が声をかけた瞬間、その肩がびくりと跳ねた。
棗は顔を上げる。
そしていつものように笑おうとして……失敗した。
「……転校生クン?」
悠真は無言で近づき、棗の前に立つ。
棗は立ち上がろうとしたが、足が動かないようだった。
「……学校、休んだな」
「うん。まあ……そうだな」
棗は視線を逸らし、笑って誤魔化そうとする。
「別に大したことじゃない。ちょっと用事があったんだ」
「……嘘だ」
そう言った悠真の声はいつもより低く、まるで威圧しているかのようだった。棗の肩がぴくりと震える。
「……何で」
「お前、目が死んでる」
言ってしまってから、悠真は自分の言葉の刺々しさに気づいた。だがもう、取り消せない。
だけどこのまま棗を放って帰ることは、もっと出来ない。
「……怖いな、転校生クン」
棗は、笑った。貼り付けたような笑みで。
それから、ベンチの端を指で叩いた。
「座りなよ。話してやるからさ」




