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一方、棗は父親と喫茶店で会っていた。
棗の秘密……それは、この世界を牛耳っていると言っても過言では無いほどの奉日本家の現当主である奉日本幸臣の隠し子であるということだった。
幸臣と愛人である水鏡暦との子供。愛人との子供など、世間に知られる訳にはいかなかった。
だから幸臣は月に一回棗と面会し、口止めと称して多額の生活費を棗に渡していた。今日はその面会の日だったのだ。
「棗、これが今月分だ。無駄遣いするなよ」
幸臣は封筒を棗に渡した。今月も沢山入れてくれたのだろう。ずっしりと重い。こんなに入れてくれなくても自分が幸臣の子供なんて世間に公表するつもりはないのにな……と棗は俯いた。
「あ、あのさ。今日……」
それでも、意を決して棗は声を掛ける。
今日、9月7日は……棗の誕生日なのだ。
誕生日プレゼントなんて要らない。ただ、一言おめでとうとさえ言ってくれればどれだけ嬉しいだろう。棗は期待を込めた目で幸臣を……父親の顔を見る。
「……待て。ふむ、そろそろ時間だな……」
しかし幸臣は棗の言葉を制し、腕時計を見る。まるで、早く帰りたいとでも言うように。
「それで?今日が何だって?」
幸臣の声は冷たく、無関心に聞こえた。棗の期待に満ちた表情を見ても……何のことだか分かっていない。
「……ううん。何でもない」
……言えなかった。今日は自分の誕生日だ、なんて。
実の父親に誕生日すら忘れられている哀れな子供に、棗はなりたくなかった。だから何事も無かったかのように、その顔に微笑みを貼り付ける。
「悪いな。これから用事がある」
「そっか。引き止めてごめん」
棗はその貼り付けた笑顔のまま、幸臣に手を振って見送る。
そして、幸臣の姿が完全に見えなくなってから、自分も喫茶店を出た。




