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学校に着く。
教室の扉を開けた瞬間、いつもの騒がしさが耳に飛び込んできた。
だが、悠真の視線は真っ先に棗の席へ向かう。
……しかしそこは、空席だった。
その事実だけで、胸が冷たくなる。
「……水鏡、いないのか」
悠真が小さく呟くと、近くのクラスメイトが気軽に答えた。
「水鏡今日休みだってよ。朝、担任が言ってた」
「……理由は」
「んー、それは何も言ってなかったけどな。多分、体調不良じゃね?でも、昨日あいつ元気そうだったよなあ……?」
体調不良。
その言葉が悠真の頭の中で反響する。
棗が、弱る。
棗が、寝込む。
棗が、誰にも気づかれずに……。
それを想像しただけで、息が詰まった。
授業が始まっても、悠真は教科書の文字を追えなかった。隣の席が空いている。それだけで、教室の空気が薄く感じる。
棗の笑い声がない。
棗の声がない。
(……学校は、こんなに……静かだっただろうか)
自分が今までどれほど棗の存在に救われていたのか。悠真は今日になって、痛いほど理解してしまった。
……休み時間、悠真は携帯電話を取り出す。
画面を開き、もう一度メッセージを送る。
『大丈夫か』
送信。
既読は、つかない。
悠真はスマートフォンを握りしめたまま、棗の空席を見つめた。拳の中に冷たい汗が滲む。
(……放課後までが、長い)
日曜日、棗がいない一日が長かった。
だが今日は、それ以上に長く感じる。棗がいない理由が分からないからだ。
悠真はいつもの癖で机の下で、ポケットの中のナイフに触れる。そんなことをしても心は落ち着かず、棗の顔ばかりが浮かぶ。
「……どうして、来ないんだ」
そして、誰にも聞こえないような小さな声で呟く。
棗がいない教室は、世界が一つ欠けたみたいに、ひどく寒かった。




