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最後の標的  作者: 有氏ゆず
第四話 誕生日
26/39

4-4




学校に着く。

教室の扉を開けた瞬間、いつもの騒がしさが耳に飛び込んできた。


だが、悠真の視線は真っ先に棗の席へ向かう。




……しかしそこは、空席だった。


その事実だけで、胸が冷たくなる。


「……水鏡、いないのか」


悠真が小さく呟くと、近くのクラスメイトが気軽に答えた。


「水鏡今日休みだってよ。朝、担任が言ってた」

「……理由は」

「んー、それは何も言ってなかったけどな。多分、体調不良じゃね?でも、昨日あいつ元気そうだったよなあ……?」


体調不良。

その言葉が悠真の頭の中で反響する。


棗が、弱る。

棗が、寝込む。

棗が、誰にも気づかれずに……。


それを想像しただけで、息が詰まった。




授業が始まっても、悠真は教科書の文字を追えなかった。隣の席が空いている。それだけで、教室の空気が薄く感じる。


棗の笑い声がない。

棗の声がない。


(……学校は、こんなに……静かだっただろうか)


自分が今までどれほど棗の存在に救われていたのか。悠真は今日になって、痛いほど理解してしまった。






……休み時間、悠真は携帯電話を取り出す。

画面を開き、もう一度メッセージを送る。


『大丈夫か』


送信。

既読は、つかない。


悠真はスマートフォンを握りしめたまま、棗の空席を見つめた。拳の中に冷たい汗が滲む。




(……放課後までが、長い)


日曜日、棗がいない一日が長かった。

だが今日は、それ以上に長く感じる。棗がいない理由が分からないからだ。


悠真はいつもの癖で机の下で、ポケットの中のナイフに触れる。そんなことをしても心は落ち着かず、棗の顔ばかりが浮かぶ。


「……どうして、来ないんだ」


そして、誰にも聞こえないような小さな声で呟く。


棗がいない教室は、世界が一つ欠けたみたいに、ひどく寒かった。




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