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9月7日(火)
朝、悠真はいつもより早く目が覚めた。
窓の外は薄曇りで、空気が少し冷たい。
(……天気が悪いな)
悠真は携帯電話を手に取り、棗とのトーク画面を開く。昨夜は特にやり取りをしていない。
それでも棗との今までのやり取りを眺めているだけで、胸の奥が少しだけ落ち着く気がした。
「……行くか」
鞄を持って部屋を出る。階段を降り、いつもの場所……アパートの下で棗を待った。
いつもなら、すぐに上から足音が聞こえてくる。軽い足取りと、眠そうな声と、苺の匂い。
……だが今日は、何もない。
棗が降りてくる気配がしない。
悠真は腕時計を見る。
まだ時間はある。遅れているだけだ。そう思いながら、視線が無意識に202号室へ向く。
(……寝坊、か?)
そう自分に言い聞かせながらも、胸の奥がざわつく。
悠真は携帯電話を握り直し、短くメッセージを打った。
『起きてるか』
……しかし、暫く待っても既読はつかない。
「……水鏡」
当然、返ってくる言葉はない。
悠真は拳を握り、数秒だけ迷ってから、階段を上がって202号室の前まで歩いた。
インターフォンに指をかける。押してしまえば、踏み込みすぎる。
友達だから、押してもいいのか。
それとも────
結局、悠真は押すことが出来なかった。
バスの時間が近づく。悠真は最後にもう一度202号室を見て、足を止める。
扉は閉じたまま。何の気配もない。
「……遅れる」
呟いて、悠真は一人でバス停へ向かった。




