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最後の標的  作者: 有氏ゆず
第三話 ともだち
21/39

3-6




棗が、マイクを手に取る。


「今日は私が無理言って誘った転校生クンの歓迎会に付き合ってくれて、皆本当にありがとう!まさかクラスメイトの半数が参加してくれるとは思わなかった!おかげで大部屋取ることになっちゃったよ!」


マイク越しで挨拶し、大笑いする。


「気にすんなー!歓迎会にこじつけてただ騒ぎたかっただけだから!」


クラスメイトの返答に、棗は更に笑うのだった。




一方悠真は棗の挨拶を聞きながら、クラスメイトたちの反応を見ていた。

こんなにたくさんの人間が、自分のために集まってくれた。その事実が、悠真の胸の中で重く響く。


しかもそれは棗が提案してくれたことなのだ。

悠真は棗の顔を見つめる。マイクを持って笑う棗の姿が、悠真の目に焼き付く。


(こいつは、いつもこんなに明るく、周囲を巻き込んでいくのだろうか)




……その時、クラスメイトの一人が悠真に話しかけてきた。


「朝倉くん、歌とか歌う?それともまだ様子見かな?」


悠真は少し考えてから、小さく頷いた。


「……様子見で」


悠真は短く答え、棗の方を見た。棗がどんな歌を歌うのか、悠真は興味を持っていた。


「よっしゃ!じゃあ私の十八番いくぜ!!」


棗は地声が男に近いくらい低い。だから歌も高音が無理で、1オクターブ低く歌っている。


悠真は棗の歌う姿を見つめ続けていた。クラスメイトたちも棗の歌に合わせて手拍子をしたり、一緒に歌ったりしている。


……悠真は無意識に、自分も手拍子をしていた。こんな風に、誰かの歌を聴いて、自然に身体が動く……それは悠真にとって、悪くないことだと思えた。




……歌が終わり、クラスメイトたちが拍手をする。悠真も小さく拍手をしながら、棗に視線を向けた。


「……お前の歌、好きだ」


その言葉は、悠真が初めて誰かに向けた好意の表現だった。


「あはっ!私、結構上手いだろ?」


棗が悠真に話しかけているところにクラスメイトの一人がやってくる。


「朝倉くん、水鏡とすごく仲良くなったよな。こいつ、本当にいい奴だから」

「ちょっ、本人の目の前で褒めるのやめろ!?」


悠真はその言葉を聞いて、小さく頷いた。


「……ああ、水鏡はいい奴だ」


悠真は短く答え、棗を見つめた。

いい奴なんて言葉では足りない。棗は悠真にとって、初めての友達であり、初めて心を開いた相手であり、初めて"人間になれる"と思わせてくれた存在だった。


「……っ!ばかばかばか!褒めても何も出ないって!!」


棗は照れを隠しながら、誤魔化すようにもう一曲入れる。次に入れたのは、曲調は明るいが心中の曲だった。


「……心中」


悠真はぽつりと呟く。

10月1日までに、悠真は棗を殺さなくてはならない。でももう、友達になってしまった棗を、殺すことなんて出来ないかもしれない。


(……だったら、いっそのこと心中を)




「……お前は、こういう歌が好きなのか?切ない歌が」


歌い終わって戻ってきた棗に、悠真は質問を投げかける。


(もし水鏡と一緒に死ねるなら、それは幸せなことなのだろうか。それとも、水鏡を生かすために自分が死ぬべきなのだろうか)


そう考えかけて、悠真は止めた。馬鹿馬鹿しい。棗が変な曲を入れるから、思考が影響されてしまっただけだ、と自分に言い聞かせる。


「まあ、曲はこういう系も割と好きだけどさ。やっぱ、ハッピーエンドが一番良いよなあ?」

「……ハッピーエンド、か」


自分と棗の関係に、ハッピーエンドはあるのだろうか。その問いに答えてくれる者はいない。


「……そうだな。俺も、ハッピーエンドが良い」


悠真はぎこちない口調でそう答えた。

自分と棗が、ハッピーエンドを迎えられるなら……それは悠真にとって、最高の結末だろう。


しかし悠真は、そんな結末が訪れる可能性など有り得ないことだと知っていた。




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