3-2
午後の体育の授業は、悠真にとって息苦しい時間だった。
身体を動かすのが嫌いなわけではない。ただ、理由の分からない緊張が、授業の始まりから終わりまで、薄く張り付いて離れない。
原因は分かっている。
棗が、そこにいるからだ。
「転校生クン。うちの体育はそこそこ厳しいけど、頑張ろうな」
「……ああ」
ポンと背中を叩いてくる棗に、悠真は曖昧な返事しか出来なかった。
(……何だ、これは)
準備運動をしながら、悠真は無意識に棗の方を見てしまう。
笑っているわけでも、特別なことをしているわけでもない。ただ、そこに立っているだけなのに、なぜか目が離せない。
棗は気づかない。
悠真が視線を逸らす、その一瞬の速さにも。
空は朝から重たく、雲が低く垂れ込めていた。
教師が「雨、降らなきゃいいけどな」と呟いたのを、悠真はぼんやり聞いていた。
「よし、準備運動終わったな!次は走り込みだ!」
「えー!マジかよ!!」
生徒達の不満の声と共に走り込みが始まり、校庭に規則的な足音が広がる。
湿った空気が肌にまとわりつき、呼吸が少しだけ重くなる。
「ほら、走れ走れ!サボるなー!」
体育教師が叫び、生徒たちは不満をぶーぶーと口にしながらも走る。
「ほら、頑張れ皆!」
「おいおい水鏡も教師側かよ!」
「ふふっ、だって走るの楽しいじゃないか!なあ、転校生クン?」
棗はケラケラと笑いながら走る。
悠真は俯いて、何も言えなかった。
……そのとき、ぽつ、と頬に何かが当たった。




