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悠真は棗の言葉に頷き、自分も鞄を持って立ち上がる。
校門を出てバス停へ向かう道を歩きながら、悠真は横目で棗を観察していた。
夕日に照らされた棗の横顔が、妙に綺麗に見える。悠真の胸の中で、温かい感覚が広がっていく。
……この感覚は何だろう。組織では教えられなかった、名前のつけられない感情。
「……水鏡」
悠真は棗に視線を向けながら、小さく呟く。
「お前といると、俺も普通になれる気がする」
「……ふっ。やっぱりキミって面白いな」
悠真の言葉に、棗は笑いながらバスに乗り込む。
「普通になろうとしなくていいんだよ。私だって普通じゃないんだから。だから、キミ自身がそのままのキミを愛してやりな」
悠真は棗を追って慌ててバスに乗り込む。
「ほら、今日はキミが窓際に座ればいい」
棗に促され、悠真は窓際の席に座った。そして窓の外を流れる景色を見つめながら、呟く。
「……そのままの俺を、愛する……か」
その言葉を反芻しながら、悠真は棗を横目で見た。
5人の命を奪った自分が、そのままの自分を愛していいのだろうか。
組織に育てられ、感情を持つことを許されなかった自分が、人間として生きていいのだろうか。
「……水鏡、お前は」
悠真は棗に視線を向けながら、ぎこちない口調で続ける。
「お前は、俺を受け入れてくれるのか?そのままの、俺を……」
このままの自分を、棗は受け入れてくれるのだろうか。期待を込めた、問い掛けだった。
「はあ?」
一瞬無言になった後、棗は何を言ってるんだ、とでも言いたげに声をあげる。
その声に、悠真はビクリと肩を震わせた。
(……やはり、俺が普通を望むなど、烏滸がましいことだったのか)




