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放課後。
「よっ、転校生クン」
二人になった教室で帰り支度をしながら棗は悠真に話しかける。
「いいクラスだろ、ここ。私が男子の制服着てても何も言わずに当たり前のように受け入れてくれるんだ」
悠真は帰り支度をしながら、棗の言葉を聞いて手を止めた。棗が男子の制服を着ていたことには気づいてはいたが、任務に関係ないと判断して何も言わなかった。
しかし今、棗がそれを口にしたことで、悠真の中で何かが動いた。
「……そうだな」
悠真は短く答え、棗を見つめた。組織では、個性は許されなかった。全員が同じように訓練され、同じように任務をこなす。
しかしこのクラスは棗の個性を受け入れ、それを当たり前のように扱っている。悠真にとって、それは驚きだった。
「……お前は、そのことで困ったことはないのか」
悠真は棗に視線を向けながら尋ねる。任務に関係のない質問。しかし悠真は、棗のことをもっと知りたかった。
何故この子はこんなに明るく振る舞えるのか。なぜ周囲に愛されているのか。その理由が知りたかった。
教室には二人きり。窓から差し込む夕日が、二人の影を長く伸ばす。悠真は無意識に、棗との距離を縮めていた。この時間が、悠真にとって唯一の安らぎだった。
「……自分の身体と自分の心の性別が違くて、最初はすごい戸惑ったさ。母親にも気持ち悪いって言われたしな」
少しだけ黙った後、棗は口にする。
「だけどこのクラスは当たり前のように私の個性を受け入れてくれる。私を男性だと扱ってくれる。だから今は全然困ってないかな」
悠真は棗の言葉を聞いて、胸が締め付けられるような感覚を覚えた。母親に気持ち悪いと言われた……その言葉が、悠真の心に深く刺さる。何故か、棗の痛みが自分のもののように感じられたのだ。
「……そうか」
悠真は短く答え、視線を窓の外に向けた。
……自分も、棗と同じように"普通"ではない存在だったから。
「……俺も、普通じゃない」
悠真はそう呟いた。自分でも驚くほど素直な言葉だった。
「だから、お前の気持ち、少しだけ分かる気がする」
ぎこちない口調で続けながら、悠真は窓の外から視線を棗に戻す。
この子は、自分と同じように"普通"ではない存在。
しかしクラスメイトに受け入れられ、愛されている。
……自分にも、そんな居場所があるのだろうか。悠真の胸の中で、温かい感覚と冷たい罪悪感が混ざり合っていた。
「そっか」
棗は鞄を持って、悠真に笑いかける。
「帰ろう。そろそろバスの時間だぞ」




