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「水鏡ー!助けてくれ!」
「水鏡くん!私もお願い!」
学校に着くや否や、棗はクラスメイトに取り囲まれる。
「はいはいどうした?昨日の数学の宿題が出来なかったって?ああ、あれ難しかったもんなあ」
悠真は自分の席に座り、カバンから教科書を取り出しながら、横目で棗を観察していた。
棗は、皆に頼られている。笑顔で答えを教え、周囲を明るくする存在だ。
しかし昨日見た寂しそうな笑顔が、悠真の頭から離れなかった。あれが、棗の本当の顔なのか。それとも今の笑顔が本当なのか。
悠真は無言で教科書を開きながら、バスの中で自分が言った言葉を思い返していた。
「胸が、ポカポカする」──あの言葉を口にした瞬間、悠真の中で何かが変わった気がした。感情を持つことを許されなかった自分が、今は感情を言葉にしている。
「水鏡……」
悠真は棗の横顔を見つめながら、小さく呟いた。
「あ、転校生クンは宿題できたか?」
クラスメイトの面倒を見ながら、棗は悠真に声をかける。
「……宿題?」
悠真は自分のノートを見て、何も書かれていないことに気づいた。昨夜は棗のことばかり考えていて、宿題の存在すら頭になかった。
「……やってない」
悠真は短く答え、視線を逸らした。周囲のクラスメイトたちが悠真を見て、小さくざわめく。
宿題を忘れる……それは珍しいことではないが、悠真にとっては初めての失敗だった。
組織では、失敗は許されない。そのことが頭をよぎる。




