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バス停に着くと、まだ誰もいなかった。二人きりの空間。悠真はベンチに座り、横目で棗を観察した。今ならまだ間に合う。ナイフを取り出して、一瞬で……しかし悠真の手は、ポケットに入ることすらなかった。
「……何故、わざわざ迎えに来た?」
悠真は棗に視線を向けながら尋ねた。任務に関係のない質問。しかし悠真は、棗の答えが知りたかった。なぜ、殺し屋である自分に優しくするのか。
「へ?だって同じとこに住んでるなら一緒に登校したらいいかなって」
棗はそう言った後、はっとした表情になり、俯く。
「……ごめん。善意の押しつけだったかもしれない」
「……いや、悪くない」
少し静かな時間が流れた後、悠真は視線を逸らしながら、小さく答えた。
顔が、少しだけ熱い。こんな感覚は初めてだった。人の善意を受け取ることが、こんなにも温かいものだとは知らなかった。
「一緒に、行くのは。……嫌じゃない」
ぎこちない口調で続けながら、悠真は棗を見つめた。紫色の瞳が、朝日に照らされて輝いている。その瞳を見ていると、悠真の中で何かが揺れ動いた。
この人を殺すことが、本当にできるのか。
(……馬鹿な。5人も殺してきたんだ。何故今になって躊躇している)
そのうち、バスが到着し、二人は乗り込む。
棗は昨日と同じ窓際の席に座り、悠真は無意識に棗の隣に腰を下ろした。バスが動き出すと、悠真は小さく呟いた。
「…ありがとう」
その言葉は、悠真が生まれて初めて口にした感謝の言葉だった。
「……ん?おう」
悠真の言葉を聞いて、棗は嬉しそうに笑う。
「眠そうだし、学校着くまで寝ておきな。起こしてやるから」
「……ん、寝る」
悠真は短く答え、窓に頭を預ける。
……しかし本当は眠れなかった。
棗の存在が近すぎて、意識がそちらに向いてしまう。
バスの揺れに合わせて、棗の肩が悠真の肩に触れそうになる。その度に、悠真の心臓が跳ねた。
「…水鏡」
悠真は目を閉じたまま、小さく呟く。
「…お前と一緒にいると、変な感じがする。胸が、ポカポカする」
その言葉を聞いて、棗は吹き出した。
「何だよ、ポカポカって。可愛いなあ」
「……うるさい」
「はいはい、もう寝ときな」
(……確かに、本当に、眠い)
棗の笑い声を聞きながら、悠真の意識はゆっくりと沈んでいった……。




