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死なずの国  作者: 群星
第一章、旅立ち
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踊る剣


「アルカイオス、一体何が……!?」


 近付こうとするアフラの前にスエンが体を割り込ませる。


「アフラ様が茂みから出た直後にこやつが短剣を出すのが見え……──っ!」


 アルカイオスの頬を短剣が掠る。アルカイオスは気絶したノーンハスヤの右手を折ると剣を抜いた。

 短剣は独りでに宙に浮き、不穏な気配を放っている。やがて短剣の柄から黒い煙のようなものが吹き上がると、それは人の形をとり始めた。


「ふっ!」


 アルカイオスがその胴を横一文字に斬り裂いたが斬られた下半分は霧散し、黒い影は元の形を取り戻す。


「これは……妖刀か……!?」


 影は潜り込むようにアルカイオスの間合いに踏み込むと鋭く斬りかかる。アルカイオスはそれを防ぎ打ち合うが、その手応えは短剣とは思えない程に重い。


「く……」


 アルカイオスは一度いなすと一歩退(さが)る。すると先程まで激しく打ち込んできたのが一点、じりじりと尻込みし始めた。


(どういうことだ?)

「──アルカイオス! 日光だ!」

「!」


 アルカイオスはその声に一歩踏み込み大きく弾くと踏み込んだ分退く。すると影は迫ろうとはするが、木の影から出そうになると足踏みしていた。


(だがどうする。いっそ、骨を切らせるか?)

「……待て!」


 その時、アルカイオスに向けられた刃が逆を向いた。逃走する気配を察し追おうとしたが、アルカイオスの背から何かが飛来し短剣を叩き落とす。その隙を逃さず、アルカイオスは短剣に一撃を振り下ろすと短剣は粉々に砕けた。


「……石。投石か?」

「……間一髪、でしたな……」

「ノーンハスヤ!」


 短剣に石を投げたのは気絶から目覚めたノーンハスヤだった。影が消失するのを確認したアルカイオスはノーンハスヤに切先を突き付ける。


「アルカイオス、よせ! 貴方を助けたのはノーンハスヤだろう!」

「しかしアフラ様、その短剣を持っていたのもこやつにございます」

「うむ……それに関しては、全く弁明の仕様もござらん」


 ノーンハスヤの喉元に切先が迫る。


「アルカイオス、やめよ」

「……は」


 アフラの怒りの籠った低い声にアルカイオスは剣を収めた。溜息をつくと、アフラは冷静に訊ねる。


「ノーンハスヤ。おぬしは、私を害そうとしたのか?」

「いえ……。実は、馬から降りてからの記憶が無いのです。気がつけば、アルカイオス殿とあの短剣の影が戦っていて……。逃げられる、と思い咄嗟に石を投げました」

「そうか。アルカイオス、ノーンハスヤが真に敵ならばその石は貴方に当たっていたはずだ。貴方が一時でも気を失えば、目覚めたノーンハスヤは私を殺せただろう。だがそうしなかったということは、罪なき事の証だと思う」

「確かに……そうでござるな。すまない、ノーンハスヤ殿」

「いえ。立場が逆ならば私もそうしたでしょう」


 険悪にならずに済んだことに安堵するとスエンが三人に割り込む。


「ああ、そうだな。スエンも、守ってくれてありがとう」

「その銀の馬は、スエンというのですか?」

「ああ、私の馬だ。……そうだ、スエン。おまえはどうやってここに……」


 そこでアフラはスエンの首に小さな箱がかけられていることに気がついた。それを外して蓋を開けると細い羊皮紙が入っている。


[アフラ様

どうかご無事でいることを願い、スエンを向かわせました。貴方様をお支えする身でありながらお守りできず申し訳ありません。私のことは心配なさらないでください。ご無事をお祈りしております。

ヤナド]


「ヤナド……」

「アフラ様。その方が、彼女を送ってくれたのですか」

「ああ。危険だったろうに……。ヤナドは大丈夫だろうか……」


 脱出した夜を思い出しアフラの顔が曇る。


「その人物は、殿下の侍従でしょうか」

「ああ」

「それならば、おそらく殺されてはいないでしょう。殿下は宝物殿の管理者であられましたな?」

「そうだ」

「であれば、その引き継ぎを新王は考えねばならないはずです。すぐにどうこうはされないでしょう」

「そうか……そうだな。ありがとう、ノーンハスヤ」


 アフラはノーンハスヤに近付くと、手をノーンハスヤの右手に翳す。


「じっとしていてくれ」


 すると白い火がアフラの手から現れ、それはノーンハスヤの右手首を包み込む。


「こ……これは……!」

「…………ふぅ。どうだろう、まだ痛むか?」

「全く……! これが、殿下の魔法ですか……!」

「ああ。大体の怪我や病なら治せる。限りはあるが……」

「病までも……」


 ノーンハスヤは考え込むと、地に拳をつき頭を下げた。


「申し訳ありません、殿下。私は貴方様に邪念を抱いておりました」

「邪念……?」

「殿下が生まれついて魔法が使えると聞いた時、私はイザナ様が脅かされると思ったのです。それゆえ、此度の案内をイザナ様に願い出ました」

「……。そうか……」

「ノーンハスヤ殿。白状したということは、覚悟はおありのようだな」


 アルカイオスは憤りの籠った目でノーンハスヤを見下ろしている。


「うむ。殿下、これは命乞いではありませぬが、先程までの私の言葉に偽りはございませぬ」

「……そうだな。よい、赦そう。おぬしはあの剣を砕く一助をし、ヤナドの現状を推し量ってくれた。それにて手打ちとする。よいな、アルカイオス」

「はっ!」

「ただし、赦してやれるのもこれきりだ。そう心せよ」

「はっ……ご温情に感謝します」


 場を収めるとアフラの頭に先程の短剣の魔が(よぎ)る。


「となると……あの妖刀は何だったのでしょう」

「……あれは恐らく精霊(ジン)だ」

「悪しき精霊、ですか……。しかし、この森の精霊ではありますまい」

「ああ。この森のものであれば、森に入った時点でノーンハスヤの記憶が消えているはずだ」


 その時、鳥が一斉に羽ばたく音がした。


「あの羽ばたき方……ひとまずお隠れください! 恐らく、人が入ってきました。それも結構な数です!」

「アフラ様、こちらへ!」

「待て、ノーンハスヤ! おぬしはどうするのだ!」

「誰も居なくては怪しまれるでしょう。なに、相手が軍であろうと簡単には死にませぬ」


 そんなことを言い合っていると脚絆の音が近付いてくる。茂みに再び隠れたアフラは、木々を抜けて現れた人物に目を見開いた。


「あれは……ガルガン!」


 その男は堂々とした体躯を越える大剣を背負ったマハ国の武将のひとり、ガルガンだった。

 

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