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死なずの国  作者: 群星
第二章
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翼を持つ亜人


翼人(ガルダ)だと!?」


 夜。サルドや政務官が集合した会議でティールの提案は非難を浴びた。


「あのような鳥どもに頼るなど!」

「ティール殿、貴殿は知恵者と聞いたが、まさかそのような提案が出てくるとはな」

「では、反対する理由をお聞かせいただいても?」


 皆が口々に反対するがティールは柔和な微笑みを崩さない。その返しに政務官は口を噤んだが、サルドは大きな溜息をついた。


「貴殿の見立て通り、確かにザグロス山脈には翼人(ガルダ)が住む。蛇の毒も、翼人なら問題無いだろう。だが……この町とここの翼人族は些か折り合いが悪いのだ。加えて、奴らは今繁殖期にあたる。下手を打てば殺されるぞ」


 翼人(ガルダ)というのは、この世界に遍在する人に似た生き物──「亜人」の一種である。主に山に住み、その名の通り翼を持っているのが特徴だ。

 翼人族を頼る、というのは文明人を自覚するマハ国の人間には受け入れ難い提案であるのは事実なのであろう。フーシャンも同じ意見のようだが、他に打てそうな策が無いのもまた事実だった。


「アフラ殿はどのようなお考えで?」


 王弟に仕える者がまさか、という濁った期待が周囲から向けられるのが嫌でも分かった。


「皆様の思いは分かります。人間の問題は人間が解決するべきことであり、他所の種族を巻き込むのは如何なものかと考えられているのでしょう」


 アフラは凛と声を張った。


「ですが、その翼人族(ガルダ)も此度の災いを被らなかった確証はありません。恐らく翼人族にも被害が出ています。あれだけの蛇が集まっているということは、繁殖期であるにも関わらず翼人族が蛇を狩ることができていないということ。何かが起きているのではないのでしょうか」

「! それは……いや、確かにそうだ」

「王都から来た私達に、皆様と翼人族(ガルダ)の確執は分かりかねます。ですが災いの時分であるからこそ、助け合うべきではないかと思うのです。その橋渡しの為なら、私は何処にでも赴きましょう」


 その言葉に反対する者はいなかった。賛成する者もいなかったが。




──────────




「さて……行くか」

「楽しみです!」

「では、順番を決めましょう」

「順番?」

「はい、翼人(ガルダ)の性質を利用します。まず先頭はニーシュブルに」

「えぇ!? あたし、山登りはじめてだよ!?」


 山に不慣れなニーシュブルに先頭を任せるのは常ならば悪手だろう。だが、ティールは山登りの危険よりも翼人(ガルダ)に襲われる危険を避けることが先決だと説いた。


「翼人は子供を襲いません。地の利は翼人族にあり、現在翼人族とここの人間は緊張状態にあります。無益な争いを避けるためにも、ニーシュブルに先頭に立ってもらいたいのです」

「それなら……がんばるけど……」

「二番目は殿下にお願い致します。翼人族は魔法を扱える者には一定の敬意を払います。これで、無意味に襲ってくることは無いでしょう」

「分かった」

「三番目は私が。最後尾はアルカイオスに」

「後方こそを警戒するべきか」

「その通りだ。前面から攻撃してこない場合、高所から後頭部を狙われる事がある。お前なら一撃は喰らっても平気だろう」

「お前な……」


 アルカイオスは諦めたように溜息をついた。四人は山裾の道の中でも緩やかな道を選び登り始める。途中、鳥の声や小動物が動く音はすれども山は静かだ。


「……静かだな。本当に翼人族はいるのだろうか……?」

「そうお思いになるのも無理はありません。翼人族は非常に静かに動くことが可能な亜人です。……それにしても、静かですが」

「ん! ……声、がする?」


 ニーシュブルは目を閉じ耳を澄ませる。微かに静寂を震わせる音が、ニーシュブルには聞こえた。


「あっちです!」

「人か?」

「わかりません。でも……悲鳴、に似た音だった」

「急ごう。足元に気を付けて」

「はい!」


 急ぎ足になりながらニーシュブルが聞いた悲鳴の方向に向かう。


「──にいちゃん、にいちゃん!」

「いた! あそこです!」

「っ……! 彼が、翼人(ガルダ)か……だが……」

「ッ!? なんだ、おまえら! こっちに来るなよ! もうにいちゃんが傷つけられるのはイヤだ!」


 声の主──翼人族の少年は手に持った棒を振り回して威嚇する。ニーシュブルとアフラが進み出ると、少年はびくりと後ずさった。


「大丈夫? あたしたちは、きみを傷つけたりしないよ」

「怪我をしているのか? 私は、傷を治す魔法が使えるんだ。見せてくれないか」

「……あんた……魔法、つかえるのか……? じい様と同じ……」


 アフラが手に灯した癒しの火を見て少年は呆然と呟く。しかし、我に返るとアフラの足元に縋り着いた。


「おねがいだ! にいちゃんを……にいちゃんを助けて! 動かなくなっちゃったんだ……!」

「ああ、もちろん。兄君は……」


 顔を上げ、少年の後ろに横たわるその翼人を見たアフラは絶句した。

 少年の兄は、首から上が無くなっていた。そこが破裂したような断面に、アフラは顔を強ばらせる。


「……ティール」

「……流石の亜人といえど、頭部を喪って生きるものを私は知りませぬ」

「そう……か……」


 少年の表情がみるみる曇っていく。アフラはしゃがみ少年と目線を合わせると、務めて柔らかい声で聞いた。


「お主、名前は?」

「……サルワ」

「サルワか。……ここの経緯を、聞いても良いか?」

「……かあちゃんのために木の実を取りに来たんだ。おれはまだ蛇を狩っちゃダメだっていうから、にいちゃんといっしょに……。ここの向こうにある木に行こうとしたら、にいちゃんがおれをつきとばしてきて、それで……」

「そうか……。……お主の兄君は危険を感じ、お主を助けるために突き放したのだろう。兄君は……既に、命を失っている」

「……うわああああああっ!!」


 崩れ落ちたサルワの背に触れるとサルワはアフラに抱きついて泣きじゃくった。アフラはそれを受け止めたが、それと同時に矢が空を切る音がする。


「ふっ!」

「アルカイオス!」

「……何者だ。降りて来い!」

「それはこっちの科白だ。サルワを離せ、人間!」

「シギさん!」


 サルワは顔を上げるとアルカイオスとシギと呼んだ人物との間に立って両手を広げた。程なくして木から何かが音もなく飛び降りてくる。


「シギさん、この人、おれのケガを治してくれたんだ! 悪い人間じゃないよ!」

「サルワ、そのままこちらに来い! 人間など……」

「この人、魔法が使えるんだ! じい様とおなじだよ!」

「魔法が……?」


 シギは構えた弓を下ろす。やがて苦虫を噛み潰したような顔で吐き捨てるように言葉を投げた。


「……来い。魔法が使える者は長に会わせる決まりだ」

 

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