鳴動
「馬まで貰えるとは……。色々と済まないな、スファル」
「いえ、殿下の御為ならば。お役に立てますこと、光栄にございます」
翌日。メサの門にはアフラ達四人を見送りに、スファルをはじめ街の政務官や使用人の親子、ニーシュブルの治療をしたメイス医師が集まった。
「どうかお元気で。お体にお気をつけくださいませ」
「殿下……ほんとうに、ありがとうございました」
「良いんだよ。また会えたら、お茶を淹れてほしいな」
「はい……!」
「ティール殿、今までご助言をいただきありがとうございました。貴方には及びませんが、政務官一同、スファル殿をお支えいたします」
「いやいや、何を仰るか」
「いやいや……」
アフラとティールが様々な別れの言葉を交わす一方、ニーシュブルはメイスの小言に耳を塞いでいる。
「ちゃんと聞かんか! お前の体の小ささで持ち堪えたのは奇跡なのだぞ!」
「分かってるってば! 世話は焼かんとか言ってたくせにすっごくお小言多いよ!」
「まあまあ……。メイス殿、俺も聞いておりましたから、その辺りで」
「ふん。お前は……ティールの友人だと聞いたが」
「はい」
メイスはアルカイオスをじろじろと眺めると鼻を鳴らす。
「あいつの奇行は治っとらんのか」
「……ええ、まあ」
「するならせめてこいつの目に入らんところでさせろよ」
「心得ております」
「奇行ってなに? 脱ぎ癖のこと?」
神妙に頷いたアルカイオスだったが、ニーシュブルの一言に目を剥いた。
「見た……やったのか!? あいつは!?」
「朝起こしに行ったら全部脱いでましたよ」
「──ティール!!!!」
アルカイオスの怒声が再び響く。
こうして。アフラ、アルカイオス、ティール、ニーシュブルの四人はメサの街に別れを告げ、西への旅がいよいよ始まったのだった。
は、は、と荒い息が空洞に響く。
「導師! やりました! 不死の血を手に入れましたぞ!」
洞窟には黒いフードを纏った者達が中央にある篝火に座る人物を囲んでいる。篝火は灰色で、どう見ても普通の火ではない。導師と呼ばれた篝火の老人は、駆け込んできた人物が跪くとゆっくりと立ち上がった。
『此度は……上手くいったようじゃな』
「はっ。追放された身であれど、腕は確かだったようで……」
『獲物に執心する余り、背後にすら気付けなかったようじゃが……所詮、偽りの民よ』
老人は男から短剣を受け取ると、短剣を掲げ刃先を下に向けると口を開く。柄の中央に爪を立てるように力を込めると、先端に赤いものが伝い、滴り落ちた。
『…………おお……!』
灰の篝火が大きく弾けた。燃え上がり、唸り声を上げる。
『やはりあの王子は真の不死であったか……』
「遂に不死が……!」
「この日をどれ程待ったことか……」
老人は血を飲み干すと大きく手を広げる。
『皆、よくぞここまで耐えた。偽りの時代は終わりを迎える。魔王様の復活は成され、暗黒の世が訪れる!』
「おお……!」
「導師よ……導師サッバーフよ!」
「我ら闇の使徒、共に参りましょうぞ!」
篝火がごうごうと燃え盛る。その歓喜は地響きのように静かに、しかし呪詛のように鳴り止まない。
『偽りの民に死を! そして、新たなる世界の為に我ら闇の使徒は不死と成らん! 狙うは──天嶺の三貴子よ!』




