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死なずの国  作者: 群星
第一章、旅立ち
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処罰と恩赦


「アフラ様。王都で戴冠式が行われるそうです」

「そうか。兄様はこれまで父様の跡を継ぐために研鑽を続けてこられた、良き王になられるだろう」


 シラと戦った次の日。昼食の席で、アフラはスファルより王都からの報せを聞いていた。


「それに伴い、恩赦の報せも。よって、シラは極刑となることになっていましたが、減刑することとなりました」

「うむ。……改心するなら、有用な人材となるはずだ。だが、昨日スファルはゴーレムで兵を何人も殺しているからな……」

「はい。裁判官と話しまして、鞭打ち二十回が妥当ではないかという結論になりました」

「そうだな。私も異論は無い」

「それでは、準備が整いましたら本日刑を執行します」


 早い、とアフラは思ったがスファルの方針に異を唱えることはしなかった。この街の今後に必要な事であるからと分かっていたからである。

 通常、マハ国の司法では実刑が決まっても即日執行されることはまず無い。本当にその刑が妥当であるのかの審議が重ねられること、また親族や第三者からの嘆願がある場合があるため、最低でも三日は猶予が設けられる。

 だが今回のシラの場合は、立場を偽りその権力によって民衆に害を為したとされ、また直接的に殺人を行っている。加えて、シラのように己の権力を振りかざす者が政務官から出かねない懸念もあるため、シラへの刑の執行は早められることとなったのだ。


「……つまりは見せしめだな。治安を、民の暮らしを守るために必要だと、スファル達はそうすることにしたのだろう」

「成程。そう思うと、この国の法は柔軟ですね」

「そうだな……公平に、かつ公正にあって欲しいと思う。アルカイオスの国はどうだったのだ?」

「今となれば、あまり良いものとは言えません。階級によって差があり、相手が奴隷であれば殺しても罪にはなりませんでしたから」

「そ、そうか……」


 公開執行にはアフラも立ち会いを求められた。王族の務めとしてアフラはこれに頷き、アルカイオスと共に呼ばれるのを待っている。


「アルカイオス。貴方の故郷については、聞かない方がいいか?」

「……。いえ……。私は……余りに貴方様と、この国の人々とは異なります。私にとって、故郷が愛すべき国であることに偽りはございません。ですが、いずれ貴方様を失望させるのではないかと。そう思ってしまうのです」

「そうか……」


 アルカイオスの表情はこれ迄に無い程に苦悶に満ちていた。アルカイオスの言う通り、アフラ達の常識とは離れている国なのだろう。だが、アフラはアルカイオスの拳に手を重ねた。


「アルカイオス、私は貴方を、貴方が生まれた場所を知りたいと思う。無理に話せとは言わない。ただ、食べ物は何があるのか、人々の暮らしはどうなのか……小さい事でいいから、話して良いと思えたら、教えて欲しい」

「……は……」

「──アフラ殿下、アルカイオス。準備が整ったようです」


 丁度その時、扉を叩く音がした。二人を呼びに来たのはティールだった。彼もスファルに呼ばれて来ていたらしい。


「分かった。向かおう」


 刑が行われるのは領守の館の前にある広場だ。後ろ手に縛られ、膝を折り畳んで座らせられたシラが集まった民衆から罵倒を受けている。


「人殺し!!」

「お前のせいで妻が死んだ!!」

「弟を詐欺師扱いして牢に入れやがって!!」


 石を投げる者はいないが、本当はそうしてやりたいのだろうと肌で感じ取れる程に民衆の怒りは大きかった。


「静粛に! これより、罪人シラに刑を言い渡す!」


 口髭を蓄えた裁判長が進み出ると丸めた羊皮紙を取り出す。


「現領守であるスファル殿を監禁し、本来就く資格の無い職務に就き、またその権力をもって悪政を敷いただけでなく魔術を用いて多くの人間を殺した。シラには本来であるならば絞首刑が課されるが、セリオン新陛下の戴冠に伴い、恩赦がある!」

「なんだって!?」

「そんなのありかよ!」

「静粛に! これより、シラには鞭打ち二十回の刑が課せられる!」


 裁判長がそう言い渡すと刑吏が五人、うち四人がシラの両手足を押さえ付け一人が棒状の鞭を持つ。


「ま、待ってくれ! 鞭打ちなど──」

(いち)!」

「──ギャアアアアアァッッ!!!!」


 痛みにシラが絶叫する。その背中は真っ赤に裂け、血が滲み出す所に二回目が打たれる。


「二!」

「ひぐあッ!! あっ、あああああ!!」


 半狂乱になって泣き暴れるシラが鞭打たれるのを、アフラは険しい顔のまま見ていた。それはアルカイオスとティールも同じで、同情を表す者は一人もいない。


「三!」

「あ゛ッ」


 三回目が打たれると、シラは潰れた蛙のような声を出した。口からは血の泡が出、控えていた医師がシラの様子を見る。


「……事切れております」

「──シラは死をもって罪を(あがな)った。これにて、刑を終了とする!」


 刑吏がシラの遺体を回収し、兵士達は民衆を追い戻す。誰もそれに逆らうものはおらず、無言で戻っていった。


「終わりましたな。お疲れ様でございました、殿下」

「……ああ」

「まさか三回で死ぬとは思いませんでした。仮死で無ければ良いのですが」


 やや憤るアルカイオスをティールが睨んだ。それには気付かず、アフラは長い溜息を吐く。


「……あのような者を出さぬよう、人の上に立つ者は努めていかねばならないな」

「は……無思慮でございました。申し訳ありません」

(顔色があまり良くない……王族の義務の一つではあるが、こういうのは避けねばならんな)

「殿下、今日は気を休めることと致しましょう。そうだ、メサの特産の茶を比べるのはいかがでしょうか」

「ああ……。ありがとう、ティール」


 アフラが屋敷に戻っていく後に続きながら、ティールはアルカイオスの脇を強めに肘で突く。アルカイオスはそれを甘んじて受けた。



──────────



「ど、どうぞ……こちらは、ティブラです」

「これは……昨日のあの茶葉か。ティブラというのか、とても良い香りだな」

「は、はぃ……」


 アフラに茶を出したのは、昨日茶を零してしまった子供の使用人──ルムと、その母親だ。


「食後のお茶には、まずこれがおすすめなんです。香りがつよいので、きらいな方もいるのですが……よろこんでもらえて、よかった」

「口がさっぱりするな。確かに食後に飲むのに向いている。しかし、現地のものはやはり良いな。王都でも飲めるが、運ぶ道で香りが飛んでいたようだ」

「なるべく密閉して運ぶようにはなっていますが、やはりそれでも品質は下がってしまいますからね。まさか殿下に味わっていただく日が来るなんて……」

「私は詳しくは無いが、香りよく煎れるのは難しいのだろう? ルムは凄いな」

「ぁっ……い、いえ……」

「あらあら。光栄にございます、殿下。よかったねえ、ルム」


 母の後ろに隠れてしまったルムが微笑ましい。


「そう言えば、牛の乳を入れて飲む茶があると聞いたことがあるのだが……」

「それでしたらアサムがお勧めですわ。折角ですし、比べてみましょうか」

「じゃあ、乳を入れる方は濃いめにいれます……その方が、おいしいです」


 和気藹々と茶葉談義を行う三人の傍ら、ティールは本を読みがてら、アルカイオスは難しい顔をして茶を飲んでいる。


「茶の違いなど分からん、という顔をしているな」

「分かっているなら声に出すな」

「律儀な奴だと思っただけだ。なにも主の趣向全てに合わせなければならないということも無いだろう」

「俺がなるべく分かりたいだけだ」


 ティールは楽しそうに含んだ笑い方をする。そこに、軽く扉を叩いてスファルが入ってきた。


「アフラ殿下、町医者から手紙が来ました。こちらを」

「医者からか!」


 アフラは急いで封を開けると、ほう、と深く息を吐いた。


「アルカイオス、ティール! ニーシュブルが目を覚ましたそうだ!」

「おお! それは何より!」

「失礼します。面会は明日から……ですか。本人は元気ですが、止められたとは」

「大事をとってのことだろう。ああ……だが、本当に良かった……」


 それでようやく人心地がついたのか、アフラの表情がより柔らかくなった。先程よりも楽しそうに茶を比べるアフラに、アルカイオスも顔を綻ばせた。

 

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