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死なずの国  作者: 群星
第一章、旅立ち
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市場にて


 二人は街の市場に来た。市場は人々で賑わっており、活気が損なわれている印象はない。


(今のところは変わったようには見えないが……)

「すまない、林檎を三つ」

「あいよ」


 アフラは一つをアルカイオスに渡したが自分は口をつけずに仕舞う。その後も市場を巡ったが、交易品を扱う露店が全体的に値上がりしている以外には特に異変は無かった。


「この絹、相場より高くないか?」

「すまんね、税が上がったんだ。麦とか肉はそこまでじゃないんだが……」


「……」

「アフラ様。戻りましょう」

「ん、何故だ?」


 気付けば市場の外れまで来ていたが、アルカイオスが気まずそうにアフラの前に立つ。肩越しに路地裏を覗けば、項垂れる女性が数人居るのが見えた。


「……ああ、そういうことか」

「──あ、あの、貴方は……!」


 その時、アルカイオスに別の路地裏から声がかけられる。


「何だ?」

「あの、もしかして、アルカイオス様ではありませんか? 一時、サティヤ村におられませんでしたか?」

「あ、ああ。確かにそうだが……」


 アルカイオスに声をかけてきたのは、使用人の格好をした少女だった。少女はアルカイオスを知っているようだが、アルカイオスには覚えがない。


「すまないが、お主は──いや、待て。もしかして、ニーシュブルか!?」

「はい! お久しぶりです!」

「……知り合いか?」

「あっ、すみません! あたしはサティヤ村のヤグルとメルの娘、ニーシュブルといいます!」


 少女、ニーシュブルは薄暗い路地裏とは対照的に溌剌としている。しかしアフラの顔をはたと見ると、口をあんぐりと開けた。


「あ……あああ、あの、あふ」

「!」


 アルカイオスは思わずニーシュブルの口を塞ぐ。周りを見ると、暗がりから女性達がこちらをじっと見ているのが分かった。


「ニーシュブル、お前はどこかで働いているのか?」

「あー……いえ、その、解雇されちゃって」

「ではこの後帰らねばならぬ場所があるわけではないな」

「? はい」

「アフラ様、一度ティールの家に戻りましょう。ここはあまり長居してよいところではありませぬ」

「分かった」


 気付けば日が傾き始めていた。足早にティールの家に戻り、一息つく。


「……アルカイオス、人攫いは感心しないぞ」

「誰が人攫いだ。彼女は以前、俺が世話になっていた夫婦の娘だ」

「ああ、サティヤ村だったか?」

「はい! サティヤ村のニーシュブルです!」


 元気な少女だ、とアフラの顔が緩む。フードを外した状態で目が合うと、ニーシュブルは今度は目を大きく見はった。


「あ、あのあのあの、第三王子様で、いらっしゃいますか……?」

「ああ、いかにも。そう固くならないでくれ、今の私はあまり貴人として役に立たないのだ」

「えっ……。あの、その……」

「どうした?」


 ニーシュブルが声を潜める。


「もしかして……女性、でありますか……?」

「……!」

「もっ、申し訳ございません!」

「ああ、いや、その通りだよ。よく分かったね」

「ニーシュブル! 申し訳ありません、アフラ様……」

「いや、大丈夫だ。気にしていないゆえ、怒らないでやってくれ」


 そんなことをしていると、ニーシュブルとアフラの腹がきゅう、と鳴った。


「「……」」

「ははは。まずは夕餉が先のようですな」

「よ、よければ作らせてください! あたし、厨房でも働いてました!」

「では、頼もうか。あるものは好きに使っていい」

「はいっ!」


 ニーシュブルは元気に駆けていく。アルカイオスはアフラの秘密を知っても驚いた様子のないティールを訝しげに見た。


「お前、知っていたのか?」

「ああ、殿下が女人であることか。喉が細いだろう。狭間のお見かけゆえ、まず見破られることは無いだろうさ」

「ニーシュブルは分かったぞ」

「女の勘はまた別だ。お前は教えて頂くまで分からんかったのだろう」


 アルカイオスは眉を寄せて閉口した。ティールは喉の奥で一通り笑うと林檎を持ち考え事をしているアフラに声をかける。


「さて……殿下、いかがされましたか」

「うむ……。アルカイオス、林檎は食べたか?」

「いえ、アフラ様がお召しにならなかったので」

「そうか。二つに割ってくれるか」

「かしこまりました」


 アフラも自分の小刀を出し林檎に食い込ませる。アルカイオスの林檎はぎっしりと実が詰まっており瑞々しいが、アフラの林檎は違っていた。


「っ!」

「うわっ……大きいな」

「これは……果喰虫ですな」


 アフラが小刀を軽く入れただけで二つの林檎は容易く割れた。その中には丸々と太った虫がおり、まず見ない大きさにティールも顔を顰める。


「店主の選び方に違和感があったのだ。わざわざ右と左の籠から見繕って渡してきたのだが、重さが僅かに違うと感じたのだ」

「これは明らかに虫害ですな。見た目は綺麗だが……」

「税が上がった影響でございます。虫害によってまともな作物が少なくなっても、偽って売らなければ明日の麦も買えぬのです」

「それだけではない」

「ほう……」


 ティールが薄らと笑んだがその時、元気な声が飛んできた。


「ご飯ができましたよー!」

「……先に夕餉だな」

 

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