第一話 始まり
チャイムが遠くから鳴り響く通学路を、俺はただ必死に走っていた。
これ以上時間が過ぎてしまったらもう後がないと思い、走る。
走りながらなぜ俺はこんなことをしなければならないのか自問する。
答えはすぐに出た。
「寝坊したーーーーー!」
高校初日から春休みの気が抜けないまま寝坊してしまった。日は建物の陰から顔をのぞかせている。
走り始めてから5分後、廊下に貼られていた地図を頼りにようやく教室についた。走ってきた勢いそのままに、教室の扉を勢いよく開ける。
「すみません、寝坊しました!」
その瞬間、一気に顔の知らないクラスメートと先生の冷たい視線を感じた。たぶんみんな俺の遅刻した10分間待っていたのだろう。
俺の額から冷や汗が一つ床に落ちる。
そして、ショートカットの幼馴染の桃花 文が自分の席で小さく噴き出した。
居心地の悪いホームルームが終わり、机にしがみつくように倒れている俺に桃花が話しかけてきた。
「中三のころは『受験勉強があるから』って急いで帰ってたから、何かあったのかと思ったけど川村くんがいつも通りの川村くんに戻ったことが確認できてよかったよ」
と、慰めるようにいった。
「いつもの俺は面倒ごとはしないとでも思ったのか。俺だってやるときにはやるんだ。それとお前にだけは言われたくないよ」
そのままの姿勢で顔だけあげて俺は言った。すると、桃花はむっとした表情で「高校に合格したからいいんですぅ」と口を尖らせた。
「奇跡的に高校生になったんだからいろいろと頑張れよ。部活とか人間関係とか」
「勉強のことも言って!」
本気で怒る桃花を俺は半目で見ていた。
「そんなことより」と桃花が話を変える。
「この制服似合ってる? 私的にはいいと思うんだけど」
少し顔を赤くし、桃花は聞く。
「似合ってると以前にセーラー服は中学から変わってないんだからリボンが赤から黄色になったぐらいだろ。いつもの桃花って感じ」
興味がなさそうに答えると桃花は「よかったー」っと胸を撫でおろす。
「ま、とはいっても・・・」
と、桃花はおもむろに明るい窓のほうに行き、
「私には川村くんが見とれてるように見えたけどね」
といいウィンクをする。その時吹いた強い風に窓の外は桜吹雪でピンク色に染まる。
急なことで赤面になりながら目を背ける俺に桃花は小悪魔のような笑みを浮かべ「図星ですか」と耳元でいった。俺は赤面のまま無言で固まる。桃花はそんな俺を数秒間にやにやしながら見て、満足したところで「ほらほら、早く廊下に並ばないと入学式も遅れちゃうよ」と廊下に誘導した。
その後、体育館へと向かい、体操座りで、腰の痛みに耐えながら長い校長先生の話をきき、あっという間に放課後になった。
初めまして!春桜 結分と申します。小説は初心者なのでどうかこれからも温かい目で気軽に見てくれたら幸いです!