第一話『まさかの最後っ屁』
「こ、この我が!?この我がこんな脆弱な人間ごときに負けるだとぉぉぉぉ!?」
「終わりだ『クラブ』!これで……僕の勝ちだ!」
「ふざけるなぁ!この……!この!我が!貴様のような人間なんぞにぃぃぃぃぃぃっ!!!」
勇者『ナラク』は、何とか魔王を撃滅した。その間に、何人もの仲間を失ってしまった。もう彼一人である。だがしかし、何とか魔王を撃滅したのだ。
「クッ……。は、腹に穴が……」
だが、魔王を倒したはいいが勇者もまた死にかけていた。そんな中、魔王はこの状況に激昂していた。なぜこんな弱い奴に負けたのかが分からず、そして何よりムカついた。人間が自分に勝ったうえ、なんと死のうとしていると言う事に。
「……あ、アリスゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!」
「呼んだ~?」
その結果、魔王はある手段を取ることにした。それは、彼にとって最も厳しい罰を与える事、勇者と言う称号、その鍛え上げたであろう肉体、男らしい精神、死ぬことで得られる名誉。全てを奪ってやろうと考えたのである。
「俺の魔力も!地位も名誉も何もかも!お前にくれてやる!」
「それで?」
「あの……、あのガキを!転生させてしまえぇぇぇっっっ!!!」
そうアリスに伝えた瞬間、魔王の体は何かに掴みあげられ、そのまま地獄に連れていかれる。そんな状況でも、魔王はニッコリ笑っていた。一方のナラクはと言うと、魔法陣の中に閉じ込められていた。その魔法は、相手を強制的に転生させ、別の生き物にすると言う恐ろしい魔法、禁術と言う物である。
「勇者だっけ~?ぶっちゃけ知らないしどうでもいいんだけど~……ごめんねぇ。私、義理堅いんだぁ~」
そして勇者が何を言うよりも先に、強制的に転生させる。
彼がこの世界に戻ってくるのは何年先かは知らないが、とりあえず生きている間に帰ってくるはずがない。そして魔王城を破壊し、自らは魔界に帰る。
「じゃぁね~」
ナラクが再び意識を取り戻した時、とても眩しかった。恐らく遮蔽物の無い、直射日光が当たる場所にいるのか、太陽がナラクを照り付けていた。何とか目を覚まし起き上がろうとするが、体が言う事を聞かない。勝手に後ろに倒れてしまう。
「うぅ……」
と、よろめいた時に、誰のかは知らないが女の、それも幼い女の声が聞こえる。誰の物だろうと考える暇もなく、今度はもふもふとした尻尾に包まれる。それがなんであるかは、すぐにわかった。
「これ……僕の……尻尾?」
ナラクの尻からは、もふもふの尻尾が生えていた。いわゆるリスの物に近い。だがナラクは、そんな訳が無いと言う様に走り出す。おぼつかない足取りで湖の前に行くと、そこにいたのは勇者ナラクではなく、
か弱いリス娘の幼女であった。
「……そ、そんな……」
あまりのショックに倒れてしまうナラク。そのまま湖に落ち、あわやここまでかと思われた瞬間、その体を引き上げる者が一人。
「……」
白い尻尾とふわふわの猫耳を風にたなびかせながら、少女は塔へとナラクを連れて向かうのであった。