第十六話『銀色の狼娘』
「こ、こういうのは話し合って……」
「俺はフィーリングで決めるんだ。お前は俺の物になるべきだ」
「助けてミルーっ!」
「私は『ギン』だ」
今にもとんでもないことになりそうだが、その前にミル登場。そのまま怒りのグーパンを叩きつける。助けに来たミルに、すぐに駆け寄るナラ。
「ミルーっ!」
「……大丈夫?」
「怖かったよぉーっ!」
「……そう。大丈夫。私がいるから」
「俺もいるぜ!」
キングを手に取り戦闘態勢に入るナラ。ギンはそれを見て、流石に二対一は面倒だと判断したのか、一度逃げる。何とかなった事に、へにょりと倒れるナラ。ミルも、若干緊張を緩め応戦する。
「あうぅ……」
「なんなんだあいつ……」
そう言った瞬間だった。逃げたはずのギンが襲来し、そのままミルの体を捕まえてどこかへ行ってしまう。そして、足元には矢文が突き刺さっている。そこにはこう書かれていた。
『頂上に来なけりゃこいつを殺す』
「……ど、どうしよう!?ミルが……!」
「上るっきゃねぇだろ!……だがお前の体力じゃ厳しいか……?」
どうやら、ギンはあくまで一対一に持ち込みたいようだ。そう理解したナラは、山を登る事を決断する。
「……行くよキング」
「あぁ、手伝ってやる。あいつを取り戻すぞ!」
そうして、二人の山登りが始まる。頂上までは、常人で数時間ほどかかる。それがこのクソザコナラの場合だと、一日中歩いて何とか……?と言う感じ。圧倒的に時間がかかる。だがそれでも、足を止める気はない。
「ゼー……。ゼー……」
「大丈夫か?なんかやたら疲れてないか?」
「な、なんか……空気が……」
「……ふぅん?どうやらここら辺に来ると、気圧が異常に下がるらしいな」
休憩と徒歩を繰り返し、二時間くらい歩いただろうか。いきなり気圧が下がり出す。異常気象と言う奴なのか、それともこの島が異常なのか。いずれにせよ、この気候はナラの体力をゴリゴリと削っていた。
「フー……フー……」
一歩一歩何とか歩いていると言った様子。だがそれでも、真っすぐに歩けてはいる。そろそろ日が暮れる時間だが、まだ山頂には遠い。
「一旦休むか?」
「……そうする……」
深呼吸をした後、ミルから渡されているクルミを齧って貪るナラ。そして二時間程呼吸を整えたところで、再び山頂を目指して歩き始める。弱々しいナラの姿ではなく、まるでナラク以前の姿のようだった。
(やっぱりこいつは勇者なんだな……。勇者?なんか気になるワードだな……)
そんなナラの様子を近くで見ていたキングは、何やら言いようのない懐かしさを感じていたのであった。