3.格差
「おはようございます、山岸坊ちゃん」
希望所属の筆頭保育士、高城順子が山岸兄弟を出迎えの為にどこからともなく、駈け寄ってきた。
白いワゴン車の後部ドアが自動で締められると、次に窓だけ少し開く。
そこから山岸兄弟の母親、山岸雅代が顔を少しだけ覗かせる。
「またお願いね。あれはいつものとおりに」
「承知いたしました」
順子は雅代に一礼した。
「そこ、邪魔」雅代の言葉の矢が放たれる。
「は?朱里さん、そこをおどきなさい」
順子は朱里と若菜にそう云って手で合図した。
朱里と若菜は門側へ移動し、車が通過できるように道を開ける。
次の瞬間、白いワゴン車は急発進をして、走り去っていった。
「順子さん」
朱里は順子に向かって怒ったように云う。
「あなた、何の為に皆をお迎えしているの?園児が無事に登園できるようにじゃないの?あれでは危なくて、これからは任せられませんよ。園長へ報告しておきますからね」
「しかし、あれは」
「言い訳は結構です。どんな状況であれ、園児を守るのが我々の役目です」
朱里は云い返せなかった。云っている事はもっともだった。
山岸兄弟はふてぶてしく笑みを浮かべる。
そして順子と共に園内へ消えた。
若菜はこの状況をどう考えるのか。
園内に一人歩きはじめた。
「若菜ちゃん」
若菜は一瞬止まるが、すぐに園内へと歩きだした。
差別はない。
しかし所得格差によっては、その境遇に、その対応に、差ができるのはそうかもしれない。
朱里にとってそれは切ない気持ちだった。
恐らくそれは若菜にとっても。




