03
私はクラインに言いました。
「実は今日はここに泊まってまして。」
クラインが私に言いました。
「そうだったのか。」
私はクラインに尋ねました。
「クライン様こそどうしてここに?」
クラインが私に言いました。
「トロイラント公国との交渉を終えてベスタール帝国に帰るところなんだよ。」
クラインの名前はクライン・ユーゲントと言ってベスタール帝国のユーゲント侯爵家の出身だそうです。
歳は私と同じで23です。
クラインは私が貴族学院に通っている頃に帝国からの留学生として私の通うリヒテル第一貴族学院への留学生としてやってきていました。
2年の時にクラスが同じで席が近かったのでよくしゃべるようになり、それから3年までずっとクラインとは仲良くしていました。
するとクラインが私に言いました。
「それにしてもアニア?もうクラインって呼んでくれないだね。すごく寂しいよ。」
私はクラインに言いました。
「いやだってクラインって帝国の交渉を一手に任されているんでしょう?そんなすごい方を呼び捨てにするのは流石に失礼かなと思いまして。」
クラインは寂しそうに私に言いました。
「昔はもっと気軽にクラインと呼んでくれてたのに。今はアニアとの間に距離を感じてしまって、俺はとってもとっても寂しいよ。」
クラインはとてもフランクな人で、顔を合わせる時はいつも私を気にかけてくれていました。
それは学院を卒業してからも変わらずで、時々こうして会ったときはいつも親しげに話しかけてくれるのでした。
私はクラインに言いました。
「拗ねないでください。分かりました。クラインって呼びますから。」
クラインが嬉しそうに私に言いました。
「ありがとう、アニアに名前で呼ばれるとやっぱりうれしいからね。それでアニアは休暇でここに来ているのかい?」
私は聖女の地位を取り上げられたうえに王国を追放されてしまったなどとはとても言い出せませんでした。
私はあいまいにクラインに答えました。
「はい、まあそんな所です。」
クラインは優しい顔で私に言いました。
「うん、それがいい。聖女はやっぱり大変だろうからね。しっかりと休まないとね。アニア?あまり無理はしないようにね。」
私はクラインに言いました。
「は、はい。」
するとクラインが私に尋ねました。
「すまない、話の腰を折ってしまったね?そう言えば何か用事だったようだけど?」
そうでした。すっかり忘れていました。
「釜の調子が悪いようで夕食が遅れるそうです。」
クラインが私に言いました。
「それをわざわざアニアが伝えに来てくれたのかい?」
私がクラインに言いました。
「はい、店主さんも忙しそうにしてたので、手伝った方がいいかと思いまして。」
クラインは笑顔で私に言いました。
「ありがとう。相変わらずアニアは優しいね。」
私は少し恥ずかしくなってクラインに言いました。
「それじゃあクライン。」
クラインが頷きながら私に言いました。
「ああアニアまた後でね。」
厨房の釜の修理が終われば元通りと考えていましたが、一向に状況は改善しませんでした。
それどころか事態はさらに悪化していました。
私はクラインと一緒に頭を抱えていました。
宿屋の主人が魔導灯をスイッチをいじりながら困惑していました。
「魔導灯が一切つかなくなっちゃったよ。宿屋に設置してる魔導灯が一斉に故障とか勘弁しておくれよ。」
クラインが宿屋の主人に尋ねました。
「ご主人??釜の修理はできたんですか?」
主人がクラインに言った。
「釜はまだ直ってないんだよ。一通り故障してそうな所を見たんだけど、どこが壊れてるのかさっぱりでね。」
主人がクラインに言った。
「そうなんですか。」
「ああすまないね。」
クラインが宿屋の主人に言いました。
「魔導灯が一切つかないとなるとこのまま暗くなると危なくなりますね。暗くなる前に松明かランプを用意した方がいいでしょう。ご主人?松明用のまきかランプはありますか?」
主人がクラインに言った。
「村はずれの小屋にあるけど。」
クラインが主人に言った。
「では暗くなる前に取りに行ってきます。」
主人がクラインに言った。
「そうかい、すまないね。」
私はクラインに言いました。
「なら私も手伝いますよ。」
私達はすぐに村はずれにある小屋へと向かいました。
私達は少し歩いて村はずれにある小屋の中に入ると中に積まれていたランプや薪を外に出しました。
私は手にランプの入った箱を持ちながら移動しました。
そしてクラインは薪を背負って移動しました。
クラインが私に言いました。
「しかしここで君と会えるとは思ってなかったよ。本来なら一泊せずにそのまま帝国に戻る予定だったからね。」
私はクラインに尋ねました。
「そうなんですか?交渉が難航していたんですか?」
クラインが私に言いました。
「いやそうではなくて移動に思いのほか時間を取られてね。来る時に使ったルートで何か所も通行止めになっていて予定より遅れてしまっていた。」
私は気になってクラインに尋ねました。
「そうなんですね。ところでその通行止めになっていた理由は分かりますか?」
クラインが私に言いました。
「トンネルでは照明装置が突然壊れたと言っていたし、橋は突然開閉できなくなったと言っていたけど。どっちも魔導装置の故障みたいだったけど?それがどうかしたかい?」
私はクラインに言いました。
「いえ?少し気になったもので。」
どうしましょう。かなり深刻な事態になりつつあります。
私はこの事態に心当たりがあったのです。
私達は離れた小屋からランプと薪を持って宿屋の前へと戻ってきました。
私は周囲を見渡してみました。
もうすぐ日暮れだというのに街灯がつく気配はありませんでした。
クラインが不思議そうな顔で言いました。
「うーん。どういう事だ??町の魔導灯も灯る気配がないな。」
私がクラインに言いました。
「ビリーの町の街灯がつかなくてみなさん慌てているみたいですね。町の人達も私達と同じように慌ててランプや薪を準備しているみたいですね。」
ビリーの町の人々は慌ただしそうにランプの準備をしていました。
クラインは頭をかしげて言いました。
「一体どうなっている?宿屋だけではなくビリーの町全体がこうなのか。」
どうやら間違いない。
私はこうなった原因に心当たりがあり、そして今その原因を確信しました。
私はこの状況を解決するために、ビリーの町の人々にこうお願いしました。
「すいません、町で使っている魔法石を宿屋前の広場に集めてもらえませんか?」