5話 目覚め
やはり夢ではなかった。
目が覚めたら退屈な現実に引き戻されるのではないか、という心配は杞憂に終わった。
俺の顔は柔らかな双丘に挟まれ、目の前には寝衣姿のルカが眠っている。
嬉しいはずなのに、胸の谷間はかくも息苦しいものなのか…。
桃源郷に酸素ボンベが必要なんて聞いてはいない、大人の本にも書いてなかったぞ。
俺はルカを起こさないように静かに桃源郷を脱出すると、急ぎ確認したいことがあったためステータスカードを俺の服から取り出す。
画面には、以下のように表示されている。
【名前】シエル・ベルウッド
【年齢】11歳
【性別】男
【レベル】100
【HP】9999
【MP】2856
【攻撃力】5982
【防御力】3125
【速度】535
【スキル】女神の加護を授かりし勇者[ 詳細を開く ]
【称号】転生者
俺はスキルの項目に注目した。
【女神の加護を授かりし勇者】は全てのスキルを習得したものが得られるものだ。
先日は【スキルを得られない】とギルドの鑑定結果が出たが、正しくは【これ以上スキルを習得できない】ということだった。
【スキル】の[詳細を開く]をタップすると、ざっと見ただけでかなりスクロールしないと確認しきれないほどのスキルが表示されていた。
基本的に冒険者が発現できるスキルは1~3つといわれているので、これがどれだけ驚異的かがわかるはずだ。
昨日のギルド前での戦闘の際、守る、動く、戦うと強くイメージした時に体から力が湧き出るような感覚があったのを思い出す。
スキルの使用は発動したいスキルを強くイメージするのが条件なのかもしれない。
このあたりは少し検証が必要だな。
そしてもう一つ、俺はステータスカードの右上に表示されている年号を確認する。
日輪歴 499年12月28日08時02分
これはゲーム内の年号であり、女神フレアが誕生し太陽を作ったとされた年を紀元として日輪歴と称しており、ほぼ現代の西暦と同じ仕組みだ。
そして俺が今焦っている理由はこの年号だ。
ゲーム上の設定では日輪歴 500年01月01日00時00分という記念の夜、この交易都市カルアはゴブリン族の師団により滅ぼされたのだ。
それから次々に各都市が獣人軍に占拠され、世界中の獣人に支配された都市を女神フレアの加護を受けた冒険者たちが取り戻していくというのがオンラインRPG【シャドウ オブリビオン】のストーリーだ。
つまり予定通りであれば今から3日後に、この都市が侵攻される事となる。
それが実際に行われるのかは定かではないが、確かめる必要性は非常に高い。
俺がここに転生したのは、獣人軍の侵攻を止めるため――なのだろうか。
「もし史実通りなら、時間がない……この街が滅ぶのを救わないと。」
「……この街が滅ぶって、どういうこと?」
俺は背後から聞こえてきた声に青ざめた。
うっかり独り言を言ったつもりが、とんでもないことを寝起きのルカに聞かれてしまった。
最悪のタイミングだ、と絶望しながら俺は彼女の方へと向き直った。
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