1話 無能力者
これが俺の生い立ち、そして転生してからこの街に至るまでの経緯だ。
誰に聞かせるでもなく、冒険者ギルド前の道端で俺はつい先ほどまでの出来事を反すうしていた。
「シエル!大丈夫!?」
冒険者ギルドからつまみ出された俺を追うように、ルカが心配そうな面持ちで駆け寄る。
「うん、大丈夫。ケガもないから心配しないで。」
あまりにも多くの出来事が起こり、自分でもこの返事が空元気なのがわかるくらい気の抜けた声が漏れてしまった。
この街、交易都市カルアへ案内された俺は、情報収集のためその足で冒険者ギルドに直行した。
だがギルドに入るや否や、さっきの荒くれたちにからまれた。
小さな子供が女性を連れて冒険者ギルドにいたことが奇異に見えたのだろう。
事なかれ主義の俺は無視を決め込んだが、彼らはその態度が気に入らなかったらしい。
スキル鑑定をする俺につきまとい、その結果に難癖をつけギルドから俺を追い出したというわけだ。
「あいつら、最近このギルドに流れてきた傭兵まがいの連中なの。横柄だと思っていたけど、小さな子にこんなことするなんて許せない!」
その小さな子の中身はおっさんなんだ、すまん。
ルカは俺がギルドから無下に追い出されたことを心配したようだが、そこはさほど気にしていなかった。
俺の心配は転生したこの世界で、どう生きていくか、
そしてどういうスキルを得ることができるか。
この2点だった。
しかし俺は得られるスキルはない、と先ほど告げられ、そんな俺を冒険者ギルドが面倒を見てくれるだろうかという不安もある。
頼みの綱である2つの希望の灯は消え入る寸前。
まさに泣きっ面に鉢2匹、オーバーキルもいいところだ。
「おいおい、誰かと思えば能無しのガキじゃねぇか。まだここにいたのか。」
「頭ぁ、このガキ、女なんか連れてますぜ。」
そんなことを考えていると、背後に俺をギルドから追い出した荒くれ傭兵たちが見下していた。
「あなたたち、ギルドに来た子を追い出すようなことして恥ずかしくないの!?」
「冒険者ギルドはガキの来るようなところじゃねぇ、ましてやスキル無しの役立たずはな。このガドウ様の助言はありがたく聞くものだぜ?」
「ひどいっ!」
ルカはこんな男たち相手に一歩も引かずに訴えかけている。
「いいよ、ルカ。今日は日を改めるよ、行こう。」
こういう輩は相手にするだけ無駄だと相場が決まっている、そう判断しルカの手を引きその場を離れようとする。
「おっと、待ちな。」
「きゃっ!」
ガドウと名乗った大柄な男は乱暴にルカを俺から引きはがし、自分のもとへたぐり寄せた。
「何をするの!?」
「お前、よく見たらなかなかいい女じゃねぇか。今夜付き合えよ。」
「いやっ!離して!」
下卑た笑いを浮かべながらガドウはルカに言い寄っている。
その様子を見て、俺の中にある何かがはじけるような感覚があった。
「おい。」
「あぁ?」
「ルカから離れろ。」
俺は語気を強め、真っすぐにガドウを見据え言い放った。
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