9話 目論見(ガドウ視点)
ここは交易都市カルアから少し離れた場所にある簡易式のアジト。
アジトからは男の怒号が響き渡っている。
「くそ!!あのガキ、なめくさりやがって!!」
「お頭、落ち着いてくだせぇ!」
シエルに受けた一撃によるダメージが癒えておらず、痛みに耐えながらガドウは怒りをあらわにした。
先日、冒険者ギルドでからんだ相手、よもや幼い子供に返り討ちに合うとは。
ガドウの受けた屈辱は推して知るべしだ。
「それにしても何者なんですかね、あのガキ。」
「10歳かそこらの子供なのにあの気迫と強さは只者じゃないですよ……。」
取り巻きたちが恐れるのも無理はない。
リーダーのB級冒険者であるガドウが全く歯が立たなかったのだ。
多くの冒険者が立ち寄る交易都市カルアのギルドといえど、ガドウに並ぶ冒険者はそう多くはない。
それほど強い冒険者であれば多少は名が知れているはずだが、当の相手は見慣れない少年。
そんな存在を彼らは皆目見当がついていなかった。
「おやおや、これはまた随分と派手にやられましたネェ。」
「…っ!グレア、貴様ぁ俺を笑いにきたのか!?」
グレアと呼ばれた獣人は、突如としてアジトの片隅に佇んでいた。
その場にいた全員、ガドウまでもが立ち入る気配に気づくことはできず、その場の空気は一変した。
「いやですネェ。ただの視察ですヨォ。侵攻まで残りわずかですカラ、確認確認♪」
ニコリと不器用な笑みを浮かべているが、その笑みの裏には底知れぬ不気味さを感じさせる。
「哨戒に来ている王立騎士団はまだ街に駐屯している。」
「アレが一番厄介ですからネェ。予定に変更はありませんカ?」
「3日後には最小限の部隊を残して王都に帰還する、変更はなしだ。」
グレアはふむ、と納得したようにうなずくと取り巻きたちに視線をうつす。
「例の準備は進んでいますカ?」
「もちろんでさぁ、少し金を積んだら商会の馬鹿な連中はすぐ食いつきましたぜ。」
「中抜きに必死な奴らだ、すでに割のいい囮のクエストをギルドにいくつか出していて冒険者達の反応もいい。」
それを聞いてグレアは満足そうな笑みを浮かべる。
「順調そうで何よりですネェ、安心安心♪」
(いやぁ、クサイクサイ。ドイツもコイツも金、金、金。人間とは汚らわしい生き物ですネェ。)
グレアにとって人間はただの使い捨ての駒にすぎない。
しかし金で動く連中は人間、獣人問わず短期的には信用できる。
見下しつつも利用できるものは利用する、それが彼の信条であった。
「では、当日は計画通りに頼みますヨォ。」
「当然だ、うまくやる。」
「あぁ~そ・れ・と♪気をつけてくださいネェ、少しでも街から離れるのが遅れたら、命の保証はできませんヨォ。うちの子達は残忍ですカラ♪」
ニィっと不気味な笑いを浮かべると、グレアは光と共にその姿を消した。
「あのガキに直接手をくだせないのは癪に障るが……あの街はもう終わりだ。」
S級名付き賞金首グレア・ダダニア、強大な魔力を持つゴブリン第8師団の長。
その毒牙が、今まさに迫ろうとしていた。
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