プロローグ前編
――俺は心躍る人生を歩みたかった。
だが、現実はそんなに甘くはない。
「シエル・ベルウッド。この者が得られるスキルは…1つもない。」
ギルドのスキル鑑定士から告げられた結果に、俺は言葉を失った。
役に立たないスキルを得るどころか、まさかスキルそのものが得られないようなことがあるのか。
「嘘だろ、何かの間違いじゃないのか?もう1回鑑定してくれないか!?」
「やりなおしたところで結果は変わらんよ、今お前が得られるスキルは1つもない。」
ギルドにいる冒険者たちからは奇異な視線が俺に向けられる。
「がははははは!まさかスキルを得ることさえもできない役立たずとはな!おい、このガキを外につまみ出せ!」
スキルの鑑定結果を後ろで聞いていた大柄な男は俺を笑い飛ばすと思い切り殴り飛ばした。
俺の小さな体は宙を舞いギルド入り口のドアに叩きつけられる。
そんな様子を見てロビーでのさばる荒くれもの達は嘲笑し、俺は冒険者ギルドから放り出された。
俺は鈴木空、ふと気づいたらこの異世界に冒険者シエル・ベルウッドとして転生していた。
色々なことが短時間で起こりすぎて、俺は冒険者ギルドを出た道端に呆然と座り込んでいた。
今この状況を落ち着いて整理する必要がありそうだ…。
▼▼▼
俺、鈴木空の人生を簡単に説明するとしたら【過去引きこもっていたが、運よく定職にありつけた凡人】だ。
青春をゲームに捧げただけに、俺はあるオンラインRPGの中では英雄だった。
だがいつまでもひきこもるわけにはいかず、大人になれば就職だ。
運よく憧れのゲーム会社にその熱意を買われ就職できたはいいものの、こなしているのは地味な運営業務やマスタ入力だ。
認めたくはなかったが、現実社会において俺の能力は平凡であり、英雄にも何者にもなれなかった。
今日も代り映えのない業務を終え、帰路についた…はずだった。
(この景色は夢なのか?)
暗がりの自室にたどり着いた俺は、猛烈な睡魔に襲われベッドに倒れこんだところまでは記憶にある。
日課の動画漁りもできずに自室で深い眠りについたはずだ。
だが目を覚ますと、視界に入ってきたのは女性の胸だ。
そして後頭部には柔らかな感触があった、おそらくは膝枕だろう。
(…これが噂に聞く膝枕幸せサンドイッチというやつか。)
ちらっと周囲に目をやると、ここは木々に囲まれた森のようだ。
近くには川が流れており、俺の服が濡れていることを考えると、膝枕をしてくれている女性は俺を川から引きあげてくれたのだろうか。
もしそうだとしたら命の恩人、そしてこの至福の時間を与えてくれた女神ということになる。
そんなことを考えていると――
「よかった、目が覚めた!?大丈夫!?」
膝枕をしてくれていた女性は、目が覚めた俺に気づき慌てて問いかける。
セミロングの赤髪が印象的なかわいらしい少女だ、年の頃は15、16歳くらいだろうか。
髪の色と同じく燃えるような緋色の瞳はまっすぐと俺を見つめている。
俺はむくりと、上半身だけ起こしてみる。
川の水を吸った服の不快感はあるが、体は問題なく動くし大きな外傷はないようだ。
「立てるかな、ケガはない?」
「あ、ありがとう。」
人とまともにコミュニケーションをとってこなかった俺は咄嗟にいいリアクションを取れず、彼女の言う通り差し出された手につかまり立ち上がった。
女子と手をつなぐのは幼稚園の時以来な気がする。
彼女の手はあたたかく、端正な容姿に俺は目を奪われた。
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