不良
瀬戸浥は一年の頃の帰宅部仲間だった。
背は高くなく、むしろその点で言えば小学生だと言われても違和感が働かないほどだけど、かと言って幼稚さが感じられる人でもなかった。肩にかかるまで伸ばされた髪に鋭い吊り目、纏う雰囲気までもが刺々しい他人を寄せ付けないやつだった。
そんな僕が彼と仲が良かったというよりは、他の人と違って陰口を言ったり忌避したりしない無害な奴だと認識されていただけだと思う。
もちろんそれだけで多少の関係を築くことになったわけではなくて、経緯や理由もちゃんとある。
「瀬戸のやつ、また停学になったってよ」
それを梅田から聞いたのは昼食の時間だった。
浥は一言で言えば非行少年だった。暴力沙汰や盗難、深夜徘徊。未遂やバレていないものも含めれば、枚挙に遑がないほどそんな類の行為をやっている。
実公立の小中学校では法的な理由で生徒を停学処分にすることはできない。ただしかし、出席停止処置という、他生徒の安全を確保するという名目での事実上の停学処分を行える規則があるらしい。
言い方の問題なだけで、中身はほぼ停学と同じだ。
浥が停学処分を受けるのは一年の頃から数えて、たしかこれで四回目だ。
「へぇ、そう」
六人一組で向かい合わせにした机で弁当を食べながら、適当に相槌を打った。
「なんだ、冷たいのな。瀬戸と仲良かったんじゃなかったっけ?」
「去年まではね」
二年に上がってクラスが別々になって以来、放課後に顔を合わせた覚えがない。
ちなみに梅田と朝日も去年同じクラスで、二人は浥に対して悪い印象を抱いていたものの、あまり表立っては嫌悪感を出さなかった。それに僕が彼と関係を持っていることを按じはすれど、そのことを理由に僕から離れていくこともなかった。
学校にいる間には、特に僕と浥が関わっている姿を見せなかった。彼と遊んでいたのは放課後が多くて、そのことを知っているのはおそらく二人くらいだ。
いや、一度だけ朝日から関わらない方がいいと強く言われたことがあった。
「今度はなにやらかしたの?」
「タバコだとさ」
「梅田」
教卓でコンビニ弁当を食べていた白髪交じりの先生から静かな怒りのこもった声が飛んできた。当たり前と言えば当たり前だろう。人の口に戸は立てられないとは言うけれど、本来であれば秘密裏に行われているはずの処置なのだから。
暴力沙汰、盗難、飲酒、そして喫煙か。非行と言われて頭に浮かぶ行為はこれでコンプリート。殿堂入り後には、麻薬とか殺人とか性行為とか、もっとやばそうなのを犯しそうな勢いだ。
怒られちった、梅田は肩を竦めた。
そのとき、机横のフックに吊るしたカバンの中でブルブルと音がした。グループの他の人たちは会話に勤しんでいて、気づいたのは梅田だけだった。
「お前、スマホ持ってきたのかよ」
「バレなければ問題ないよ。バレても怒られるだけだろうから問題ないけど」
カバンの中でスマホを点ける。噂をすれば影がさす、浥からのメッセージだった。先生から見えないようにカバンからポケットに滑り込ませ、席を立つ。
「先生、トイレ行ってきます」
個室に入って、冷たい便座には座らず扉に凭れる。指紋認証でスマホを開いて、メッセージアプリを起動させた。
『停学になった』
『聞いたよ』
『暇。放課後』
『残念だけど』
『は? お前がなんか用でもあるの?』
『僕だって用事くらいあるさ』
『うそくせぇ』
『夕方以降なら空いてるけど』
『じゃあ九時にバス停』
『夕方からじゃなくていいの?』
『夜の方が楽しい』
『そうなんだ』
『遅れたら殺す』
『わかった』
最後の一文に既読は付かなかった。




