大罪を犯す
「先輩、何かありました?」
「なんで?」
「少し、不機嫌?」
そうかもしれない。
二人の弄りが柳川さんがバカにされているようで嫌だったとか。
柳川さんのことを軽々しく口にしないでほしいとか。
ちょっと、少し、なかなか、かなり、
「こんなに嫉妬深かったんだなぁ」
あるいは傲慢。
当て嵌めるなら怠惰だと思っていた。こんな自分が眠っていたとは知らなかった。
今まで執着とは無縁もいいところの生活を続けてきた。それを理由に束縛趣味はないと言い切るには、今ではとても自信がなかった。
「柳川さんさ、重い?」
「おっ……!? 重くないです! いきなりなんてこと言うんですかデリカシーないんですか! ……たしかに最近、ストレスで甘いもの多くて少しだけ……」
「柳川さん軽すぎるくらいだから心配ないよ」
むしろ抱き合ったとき折れそうで怖かった。
「そうじゃなくて、僕の愛のこと」
それはそれで、訊かれた柳川さんは困り顔だった。
「何があったんですか?」
「僕が怠惰か傲慢か、究極の二択に迫られてる」
本当に何があったんですか……、呆れ顔で言われた。
ちょっと待ってください、柳川さんは真剣な面持ちで言った。
「重くは無いと思います。遠慮なくぐいぐい来るなとは、たまに思いますけど」
何も言わないで先を促した。
「今まで男の人と付き合ったことがないから、比較はできないですけど、わたしは嬉しかったです。先輩の言葉も、温かさも」
「柳川さん」
「はい」
「キスしていい?」
「ダメですよ! こんな通りなんかじゃ……!」
言うと一気に距離を置かれた。
「なんか今日の先輩変ですよ」
そうは言いながらも柳川さんから指を絡ませてくる。
柳川さんがそうさせてるくせに、とは言わないでおく。
「そういえば先輩、そろそろ誕生日ですよね?」
「うん。夏休みの最初だから、家族以外から祝われたことのない誕生日」
「普通ならサプライズで渡すべきだと思うんですけど、先輩が欲しいものって考えても何も思い浮かばなくて。何かありますか?」
「じゃあ、」
「もちろんえっちなのはなしです。そういうのは、まだ早いです」
釘を刺されてしまった。
まだ、ということなので先に期待しておこう。
誕生日のプレゼントか。
いかんせん趣味のない僕だ、と言いたいところだけど。
今まではたとえ暇でも大して気にはならなかった。暇で暇で仕方なくなっても同様に死ねばよかったから。
でも生きなきゃいけなくなって、暇は今思いつく限り最大の難敵だ。
これから先、何十年も趣味なしで生きていくのは想像するだけで辛い。
見つけたいとは前々から思ってはいた。
何か。
生きると決めた今、興味を持てそうなもの。
「じゃあ、柳川さんのおすすめの小説、教えてよ」




