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死んでもいいから生きている。  作者: 猟虎戀太郎
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元友人

 窓の縁に跳び乗って、身体の前後を反転。上の縁を逆手に持ち替えてから、一息で上に跳ぶ。屋上の柵を掴んで身体を引き上げるのはなかなかに腕がキツかった。よく軽々とやってみせたものだ。


 思っていた通り、浥はイヤホンで耳を塞いで寝そべっていた。日差しは強いけどエアコンがまだ点いてくれない教室よりはだいぶ涼しい。


「や」


 顔を覗き込むとようやく気づいてくれた。


「……誰だよ」


「内田灰だけど、目大丈夫?」


「……」


 怠そうに身体を起こした浥の隣に座る。


「なにしに来たんだよ」


「暇つぶしというか、ご報告というか、近況報告というか?」


「落とすぞ」


「夜遊び禁止令が出た。だからもう遊べない」


 本気で落とされそうなので素直に言っておく。


「で?」


「で、って。これからは前みたいなことはできないって言いたかったんだけど」


「あっそ」


 てっきり理由を問い詰められるものだと思っていた。

 僕としてはそれだけ伝えられればよかった。けど、


「誰だよ、お前は」


「だから、」


「オレの知ってる灰はお前みたいなやつじゃない。いつでも死にそうな顔してて、見るもん全部モノクロって目ぇしてて、全部どうでもよさそうなやつだった。ガチな女作るやつでも、目が痛くなるほどチカチカキラキラしたやつでもねぇ」


「人って変わるもんだよ。彼女もできるし、生きようともするって」


 僕も前よりは、少しずつ白黒以外の色も塗られてきているだろう。


「生きるとか気持ち悪ぃ、似合わないもんチラつかせやがって」


 その言葉はどうも、まっすぐ僕に来ているようには感じなかった。コンクリの床に吐き捨てられる言葉がそのまま浥の足元に水溜まりを作っているようだった。


「……くそが」


 水溜まりに向けて石が投げ込まる。


「てめぇがどうしようが勝手にしろ。気持ち悪いやつと関わる気はねぇ」


 僕の顔を見るのも一緒にいるのも嫌みたいで、さっさと姿を消してしまった。柵を飛び越えた後は見えなかったけれど、無事窓から入ったようだ。その証拠に、廊下にいた女子生徒の悲鳴が聞こえてきた。


「やあ、柳川さん」


 中に戻ると、柳川さんがオドオドした様子で浥が行った先を見ていた。


「どうしてここに?」


「教室に居づらかったので。もしかしたら先輩がいるかもって思って」


 柳川さんの頭に手を置くと、嬉しそうに頬を緩めた。


「そういえばさっきの人、先輩の……共犯者? でしたっけ」


「まだ覚えてたんだそれ。ただの遊び仲間だよ。元、だけど」


「喧嘩でもしたんですか?」


「まあね」


 絶縁されたまである。したいとは思わない仲直りは、きっと叶わないだろう。

 なぜか柳川さんは浮かない顔をしていた。


「もしかして、浥が心配?」


「そんなわけ……っ、」


 咄嗟に否定しかけるも、ぐっと押し黙った。


「……なんていうか、前の先輩を見ているみたいで、不安になるんです」


「僕ってあんなヤンキーみたいだった?」


「そんなことないです! 先輩はもっと誠実……では、ないですけど、頼り甲斐……はあんまり……でっ、でもいい人ですから自信持ってください!」


「うん。とりあえず僕にいいところがないってのはよくわかった」


 別に悲しくはない。むしろこんな僕の彼女になってくれただけ嬉しい限りだ。


「そういう性格とか外見とかじゃなくて、雰囲気というか……いつの間にか、フッと消えてしまいそうな感じがするんです」


 元は同じ志を掲げていた僕と浥だ。そう見えてもおかしくない。

 僕は柳川さんに浥の親について少し話した。浥から話したがることはなかったから、愚痴で漏らしていた程度のことしか僕も知らない。


 このこと勝手に話したら怒られるかもしれない。


「あの人のこと、悪く思いすぎていたかもしれません」


「まあ、大丈夫だよ」


 浥が死ににいくようなことはない。

 現実に飽きて、失望して、死んでしまえと思うようなことはない。


「浥はまだまだ子供だからね」


 なに当たり前なことを、そう言いたげに柳川さんは首を傾げた。


「浥はただ、誰かに見ていてほしかったんだと思う」


 そのために非行を働いた。死を許容してまで。

 浥の行動理念は、初めて会ったときの柳川さんに似ていた。


 それで、たぶん止めて欲しかったんだと思う。

 けれど、ただ止められるだけじゃ足りなかった。悪い噂が学校に流れても、教師に怒られても、浥の行動はエスカレートするばかりだった。


 見てもらえるだけじゃ足りない。

 愛して欲しかったのだろう。


 親から受けることのできなかった感情を人一倍欲しがっていた。強がりで素直じゃないから、その方法が歪んでいただけで。

 実の年齢よりもその見た目よりも、中身はずっと子供だったんだろう。


「最近、そうしてくれる人に出会ったみたいでね」


 愛してくれているのかはわからないけど、心から心配してくれる人が。初対面の子供相手にそこまで思える人がいるなんて、まだ現実も捨てたものじゃない、そう思ったんじゃないだろうか。


 ちょうど昼休みを終わりを知らせるチャイムがなった。

 戻りたくない、隣で陰る顔から痛いほどに感情が伝わってくる。


「サボる?」


「いえ、期末テスト前ですし、ちゃんと受けないと……あの、先輩」


「ん?」


「ぎゅって、抱きしめてくれませんか」


「いいよ」


 腕を広げると、おずおずと柳川さんが入ってくる。

 腰に腕を回して、ぎゅっと抱きしめる。


「ずっとこうしていようか」


「ダメですよ、行かないと」


 たっぷりハグをした後、柳川さんから離れていく。


「お別れのキスもいる?」


「授業を頑張ったときのご褒美に取っておいてください

「そうしとく」

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