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死んでもいいから生きている。  作者: 猟虎戀太郎
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悪化

 学校が嫌いというわけではない。それでみいかなくていいなら遠慮なく休むくらいの惰性は持ち合わせている。何かにつけて休む理由を作り出そうとして、うまくいかないことまでがワンセットだ。


 午前中に退院した僕は、半端な時間をいいことに学校を休もうとした。


 そして駄目だった。


 登校を強制されたわけじゃない。珠夜さんは全然厳しくはしてこないし、怪我人に無理強いさせるほど学校も鬼畜じゃない。ただ数学の新人教師から、ここ数日分の内容をまとめたプリントをできたら渡したいとの連絡があった。

 ありがた迷惑な厚意は受け取っておくことにした。もちろん受け取るだけでやらないけど、先生はそれで満足するだろう。


 家で制服に着替えて、放課後より少し早いの時間帯に学校に向かった。着いたのはクラスがホームルームを終えたのと同時だった。


 職員室の扉をノックしようとすると、一人でに開いた。


「やあ浥、ひさしぶり」


「死ね」


「職員室にいるなんて、珍しくもないか。何してたの?」


 訊くと、浥の視線がついと下がった。彼は後ろめたさを覚えるような性格じゃない。だから素直にその先を追う。手にスマホが握られていた。


 浥が指導を受けるのは一度や二度どころか、両手の指でさえ全然足りない。怒られてやめることはないだろうけれど、教師側も形式だけでも言わなければいけないようだ。


「お疲れ様」


 浥はただ舌打ちをするだけだった。自分のやっていることが悪いわけで、毎度呼び出されるのに怒る筋合いはない。それで怒らずにいられるならそもそも悪事を働いてはいないだろう。


「で、お前は?」


「呼び出し」


「なんかやらかしたのか?」


 どこか嬉々とした感情が混じっていた。


「課題もらいにきただけ」


 一瞬でつまらなさそうな顔に変わった。


「まあいい。じゃあな」


「何か予定でも?」


「約束」


 その割には乗り気じゃなさそうだけど。

 そこで、ふと思ったのは、単なる偶然だった。


「大学生?」


 浥の表情がくしゃりと歪んだ。当たりのようだ。


「死ね」


 次の瞬間にはそう吐き捨てて、さっさと行ってしまった。

 僕も僕とて職員室でプリントを渡されて、体調の心配をされた。さすがに学校には休んでいた本当の理由が伝わっているだろうか。それでも病院と同じく何も訊かれはしなかった。


 当たり障りのない返答をそこそこに、教室棟の東階段はワックス掛けで通れないとの忠告を最後にもらって職員室を出る。


 そのまま帰らないで、教室棟の階段を登った。忠告通り西階段を使う。数日ぶりに学校に来たから、物足りなさも相まって足を運んでいる自分がいた。

 登り切ったところで、以前来た時と空気が違うのを感じた。違和感というか、じっと自分が視られているような落ち着かない感じ。


 一年一組の教室を覗くと、部活をサボってるらしきヤンチャそうな男子集団。そこに日直をしていたもう一人が加わった。黒板を見ると、日直の片割れの名前が中途半端に消えずに残っていた。『柳  りさ』。


 雑な仕事ぶりに感謝して、僕は教室に入った。

 あみだくじのように机の隙間を抜けて、窓際一番前の席に隠れた柳川さんを見つけた。


「……」


「間が悪かったね」


 柳川さんは日誌をていねいに書く真面目な生徒だ、事実日直の日はいつも遅れて特別棟の四階に来ていた。

 今現在片方の階段は使えない。職員室の中で見かけなかったということは、日誌を書き終えて階段を降りてくるところですれ違うか、まだ教室にいるかの二択になる。


「僕でもさすがに、訳もわからず避けられると傷つくんだけどなぁ」


 柳川さんはこの期に及んで僕を無視して横を通り過ぎて行った。


 往生際が悪いとは思ったけれど、その時はまだ、柳川さんの態度は可愛らしく拗ねているだけに見えていた。倒れる直前にふざけたことを怒っているのだろうか。それだったらなおさら可愛い。

 柳川さんが折れるまで着いていこうと思った。


「じゃあなー、ヤリマン女」


 耐久戦は間も無くして、ヤンチャ男子が放った言葉によって終わりを迎えた。周りの男子のケラケラケタケタとすこぶる不愉快な嘲笑が耳に入ってくる。


 僕ではなく、その場の空気から逃げ出すように柳川さんは走り出した。四階分もの階段を猛スピードで駆けて、やがてぷつんと糸が切れたように昇降口前で止まった。


 思い出したように肩が上下する。それが収まるまで僕は待った。


「柳川さん」


 声を掛ける。今度は逃げ出さなかった。


「……もう、どうすればいいかわからないです」


 柳川さんは静かにその場に蹲った。


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