その後
あの後、柳川さんが救急車を呼んでくれてすぐ病院に運ばれたらしい。輸血やら色々されたみたいで、目を覚ました頃にはベッドの上で寝ていた。後になってお見舞いに来てくれた面々によると、丸一日以上はずっと眠っていたらしい。
多少の怠さは眠り過ぎたせいで、すぐ退院できるものとばかり思っていたけど、三日は安静にする必要があるとのこと。
こうして事の始末を語れているからには、僕は生き延びはいる。しかし、それで助かってよかったねと終わる話ではなかった。
どうやら僕は自殺を疑われているようだった。
手首を切って血の流し過ぎで死にかけたのだから、むしろ疑われない方がおかしい。柳川さんへのいじめが続くようであれば本気で命を捨てる意思があったから、間違っているとも言えない。
ただ、そのことを直接口にされることはなかった。珠夜さんや看護師さんから、何かあったら遠慮なくいってねと含みのある風に言われたくらいだ。
幸い、僕の知らないうちに柳川さんが何も話さないでいてくれた。
いじめのことから全て、ばか正直にことの顛末を話してしまっているのではないかと心配だった。
僕としてはそれで助かっている。終わった話をずるずると引き摺る気はない。事件性は疑われなかったし、自殺しようとした年頃の子供にズカズカと踏み入るのは逆に危なっかしいだろう。問い詰めればより自殺に焦ってしまう人もいるかもしれない。
そう考えるとやっぱり、よかったの一言で終わる話かもしれない。
少なくとも、今は。
「暇してるかー? 遊びに来たぞー」
「バカ、病人なんだから遊べるわけないでしょ」
入院生活三日目。
最初は初めて経験する病院生活に物珍しさを見つけられると思っていたけど、一日と半分で飽きた。歩き回ろうにも、腕に繋がれた管が邪魔で動き回りづらいのだ。
「ちょうど暇で死にそうなところだったよ」
今もう一度手首を切れば、本当に死ねるかもしれない。最低限の輸血はしたけど、それ以上は体内で作られるのを待っている状態で、まだ貧血気味なのだ。
歓迎されて素直に喜ぶ梅田と複雑そうな笑みを浮かべる朝日が部屋に入ってくる。僕が入院していることは知っているけど、その理由までは二人には伝えていない。すぐ治るとだけ言うと納得してくれた様子だった。
「何してたの?」
僕は両手を軽く上げて肩を竦めて見せた。
何もしていない。何もすることがないのだ。本当に。
スマホを弄っていてもすぐに飽きた。珠夜さんが持ってきてくれた小説はやっぱり読めなかった。外に出るわけにもいかないから、余生を過ごす年寄りみたいに窓の外を眺めるくらいしかできない。
今までの人生で二番目に内職を持たないことに苦悩した時間だった。
「そういえば、学校で柳川さん見たりした?」
「いいや。朝日は?」
「ううん」
二人とも首を横に振った。
「そっか」
「なに、また喧嘩でもしたのか?」
「一度もしたことないから大丈夫」
むしろ利害関係しかなかった時と比べれば、良くなってさえいる。
なんせ、告白して、
「……あ」
その後すぐにぶっ倒れたから、返事もらってない。
本当になんて悪いタイミングで告白したのだろうか。
それでも、まさか。
悪い方の意味で顔を合わせられないとか、返事に困っているとか思われてはいまい。
そう思えるほどには柳川さんと良い関係でいるはずなのにどうも気が晴れない。
なぜならこの三日間、何故か柳川さんは僕の見舞いに来なかったのだ。




