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死んでもいいから生きている。  作者: 猟虎戀太郎
14/33

遊園地

「ビバ、パラダイス!」


 と、両手を掲げて朝日が声を上げた。


「ビバってどういう意味?」


 僕が訊くと、


「さあ、知らね」


 梅田がどうでも良さそうに応える。


「たしかヨーロッパの方で、万歳みたいな意味だった気がします」


 すると横から柳川さんが教えてくれた。

 僕たち四人は遊園地に来ていた。名前はシーアイランド。海沿いの潮風が強く感じられる場所にある。敷地内に水族館も併設しているらしい。

 今はちょうど、フリーパスを買って入園ゲートを過ぎたところ。


「あの、本当にわたしまで来てよかったんですか?」


 二人には聞こえないように、柳川さんがひっそりと耳打ちしてくる。


 たしかに、今まで三人で遊んできたから別にそれでもよかった。それでも僕から柳川さんを誘った理由は二つあって、一つは気を遣わせないための言い訳といえる。

 時間を潰すためのどうでもいい話のつもりで遊園地に行く話をした時の、あの羨ましそうな顔といったら。純粋に思っただけで、彼女は決して誘われることを狙うほどの策士ではないだろうけれど、どちらにせよ気付いてしまったからには無視するのは気が引けた。


 それが理由の一つ。あとは、


「遊びに出るのに、奇数ってのはよろしくないからね」

 



「なんで、お前ら、そんな、平気なんだよ……」


 梅田が息絶え絶えに言ってくる。


「デカいくせに一回乗っただけでなにへたれてんのよ。弱っちい」


「デカさは、関係ないだろ……てか、お前が小さいだけだチビ」


 いつもなら張り合いのある口喧嘩は、今回ばかりは完全に気力なし。朝日に向けた罵倒も、ベンチに座っていては鼻で笑われる始末だった。


 あと朝日はチビではない。僕より少し低いくらいで、クラスメイトを見ている限りはそこそこ高い方だと思う。


「てか、ウッチーもよく普通にしてられるな……」


「苦手ってわけじゃないから」


 好むところはと訊かれると困る僕だけど、それと同じくらい、嫌うところはと訊かれるとなにを答えればいいかすぐには思いつかない程度に、これといった不得意がない。

 する事でも食べ物でも、特に世界の終末を願ったことはない。


「わたし、なにか飲み物買ってきますね」


「僕も行くよ」


 たしか、近くのゲームセンターエリアに自動販売機があったはず。財布だけ抜き取って、荷物は梅田の横に置いた。


「まだ空いてるうちに乗っておきたかったのに」


「おま、まだ乗る気かよ」


「当たり前でしょ。それにジェットコースターなんて序の口よ」


 言うや、朝日の視線が上に向く。

 高さのあるアトラクションが周囲の視界を遮っている中、一際目立つ巨塔が一つ。


「フリーフォール乗らないなんて勿体ないじゃない」


 嬉々として語る朝日に、梅田は気力を吸い取られているようだった。

 柳川さんも少し苦い笑みを浮かべていた。僕はちょっと待っててと遠回しに二回目を遠慮して、その場を去った。

 朝日の不満げな視線が僕と柳川さんを見てくる、気がした。




 曰く、遊園地の最後は観覧車に乗るのが決まりらしい。

 なんでかは知らない。


 それでも理由なしに納得させられてしまいそうになるほど夕方の観覧車前には長い列ができていた。子供連れの家族だったり、僕らと同じようなグループだったり、女子同士の二人組だったり。カップルだったり。


 周りから僕たちがどう見えているのかはなんとなく想像がついた。

 相変わらず前で言い争いをしている梅田と朝日を見て、やっぱりどう見えているか分からなくなっていたところで、横から袖が引かれた。


「並び疲れた?」


「いえ、そうじゃなくて……少し、いいですか?」


 何か話があるみたいだった。

 よくない時間は基本僕にないのだけど、素直に頷いておく。とはいえ、列を抜けてしまうと並び直しても閉園時間に間に合わなくなってしまう。

 一歩列が進む。控えめに詰めて前の二人と少し間を取った。


 そ視線を横斜め下に下げて促す。


「わたしたちのこと、二人に話しませんか?」


「というと?」


「やっぱり嘘ついたままはいけないと思うんです」


「なんで?」


 するりと、頭に上がってきた疑問をそのまま僕は口にしていた。

 柳川さんは唖然というか、呆気にとられているというか。もしくは、なにを言われているのか分かっていないようでさえあった。

 そのまま何も返ってこない。そのうちすぐに、僕の疑問はどうでもよくなった。


「別に柳川さんの問題だから僕はどうしたって構わないけど、実は恋人じゃないって言ったとして、いじめのことはどうするの?」


 問い詰められるのは考えるまでもない。柳川さんも分かってるはずだ。


「えと、それは……」


 見切り発車な一面には既視感があって、結局、答えが出ないまま順番が来てしまった。


 空いてしまった二人との差は、詰まることはなかった。朝日が梅田の腕を半ば無理やり引いて、梅田は朝日に渋々と引き摺られる形で二人で観覧車に乗り込んで行ってしまったのだ。その途中、朝日が首だけを回して一瞬のウインクをして見せた。

 列に押し流されるように乗り口の前まで来た。お二人様ですね、確認される。僕は柳川さんと二人、朝日の思惑通り観覧車に乗った。


 地面がのろのろと遠くなって海が見え出す。海猫が飛んでいる。潮の匂いはしない。

 鬱々と外を眺める柳川さんの、硝子窓に映った顔が見えた。とても景色を楽しんでいるようには見えなくて、僕も観覧車の何が良いのか理解できなかった。

 ただ景色と一緒に流れていく沈黙は、僕たちに本当の恋人ではないことを思い知らしめているみたいに感じた。


「柳川さんが言いたいなら止めないけど、僕はこのままでも良いと思うけどな」


 柳川さんの目が開いて、伏せるのを映った硝子に見た。


「まあいつかは終わるんだろうけど、この関係をいつまで続けるのかは分からないんだし。終わりが見えないことに焦っても疲れちゃうだけだよ」


 頂上に差し掛かる。


「それに、嘘ついてても誰も傷つかないんだから」


 外を見る。

 そこには、気まずそうな二人がいた。

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