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死んでもいいから生きている。  作者: 猟虎戀太郎
13/33

ポップコーン

 全く持って奇跡なんて呼べるほどの確率ではないし、むしろタイミング的に十分あり得る巡り合わせではあった。


 映画に行くとだけ聞いて、なにを見るかは任せるとだけ言って放置していた。暗い映画館の席で頬杖を突きながら、いつかの柳川さんの言葉を思い出していた。


 スクリーンの奥、病院の屋上に夜空が広がっていた。暗く非生産的な日常を送ってきたはずの主人公が、もう長くない命に弱音を吐き出す少女に告白する。君のおかげで僕の人生は変わった、君の残った未練は僕が引き継ぐからと、序盤に拒絶した少女の願いを叶えてあげたいと必死に叫んでいた。


 横からすすり泣く声が聞こえてくる。それが空々しく聞こえてしまうのは、きっと僕がポップコーンの存在を忘れないでいられるからだろう。僕しか食べていないものだから、キングサイズのそれは終盤になっても半分以上残っていた。


 やがて少女は病気で亡くなり、エンドロールに入った。

 



 ファミレスでドリンクを取って戻ると、気まずそうに梅田が僕を待っていた。向かいでは目を腫らしてムスッとした顔の朝日がいた。


「ウッチ〜、ヘルプミィ」


「自業自得だよ。自分で朝日をバカにしたんだから」


「だって面白かったんだもんよ。いっつも女っ気のないやつがハンカチ片手に大号泣だったんだぜ? これが笑わずにだっはぁ!? てめこら、スネ蹴るな!」


「ふんっ! 梅田なんか死ねばいいのに。ね、内田」

 僕に同意を求められても困る。とりあえず梅田への攻撃の巻き添えを喰らうのは嫌だから朝日の隣に座った。


「でもなんか、不思議な感じ。女の子は死んじゃってハッピーエンドじゃないはずなのに悲しくないっていうか、満ち足りた感があって」


「それな。むしろ生きる希望をもらった気分なんだよな」


 嫌いな相手と意見が同意して、むっと朝日と梅田が見合わせる。しばらく睨み合いが続いて、二人の口元がにやりと笑みに変わった。


「ウッチーはどうだったよ? 記憶に残ったシーンとかあったか?」


「そうだねぇ、高校生なのにお酒買ってホテル入ったところは少し興味が湧いたかな」


 どうやって買ったのか。服装で誤魔化せたりするものなんだろうか。フィクションには御都合主義というのが存在するとも聞く。


「さすが変人、目の付け所が違うな」


 褒められている気がしなかった。

 雑談は頼んだ昼食が届いたことで一旦中断され、各々の食事に没頭した。僕はポップコーンでお腹が空いていなかったからサイドメニューをつまんでいた。


「そういや、あの後輩ちゃんとはどうなんだ?」


「それそれ。なんか進展あった?」


「別に、一緒に帰ってるくらいだよ」


「うっは、くらいとか言っちゃってよー」


「デートはしたの? 夜電話したりするの?」


「どこかに出かけたのはあれきりだね。あと柳川さん、スマホ持ってないってさ」


 ご期待に添わない回答だったらしい、二人の唇が尖る。事実に不満げにされても、僕にはどうしようもないのだけれど。


 うんざりとしてジュースを飲む二人は興味をなくしたようだった。と思ったら、二人は意味深に視線を合わせると、頷き合って、再び僕に向き直ってきた。


「なぁウッチー、その柳川って子なんだけどよ」


「うん」


「いやな、あんまし人の好きな人をあれこれ言いたくはないんだけどよ」


「なにさ」


「まあ、そのな……部活の後輩から聞くんだよ。一年でいじめがどうこうって」


「そういうもんでしょ、中学生って」


「それでその、実はお前の彼女がさ……」


 二人に僕らが出会ったきっかけは話していない。ならば当然、僕がいじめのことを知らないと思っていても不思議ではない。


 だから、梅田からなにを話されようと、気に留めることはないはずだった。


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