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転生者が奴隷ハーフエルフの運命を変えたお話

作者: 羊光


 私、名前ない。

 ううん、あった気がする。

 何かとても嫌な記憶と一緒に名前も捨てた気がする。


 私、戦闘用の奴隷だ。

 ううん、戦闘用の奴隷だったのいうのが正しい、かも。


 クエスト中に川へ落ちた私をご主人様は助けてくれなかった。

 水に飲まれて苦しんでいる私を見て、笑っていたのを覚えている。


 気が付いたら、私は川岸に打ち上げられていた。



 森で暮らし始めて何週間たったんだろ?

 もう限界……


 今日は嫌な日だ。

 これから雨が降る。

 そうなったら、魔物の気配が分かりにくい。

 外に出れない。


「お腹空いた…………」


 もう二日、何も食べていない。

 ううん、二日前だって食べたのは苦い木の実だけ…………

 今は硬い干し肉だって恋しい。


 でもあそこには戻りたくない…………


「これがなかったら、他に出来る事、あったのかな…………」


 徐に首輪を触った。

 奴隷の証明。

 これがある限り私は逃げられない。

 これがある限り魔法に制限が掛かる。

 人のいるところには出られない。


「なんで…………私…………こうなった…………普通に暮らしたかった…………誰かと一緒に笑いたかった…………」


 もう魔力も体力もない。

 時期、動けなくなる。


「なら、いっそ…………」


 錆びた剣を見つめる。

 何度目かな?

 もう少し勇気があれば、全部から逃げられたのかな?

 

 でも、やっぱりできない。

 そんな勇気無い。


「誰か私を助けて…………」


 対等に扱ってくれ、なんて言わない。

 奴隷で良い。

 あのご主人様より私を大切に扱ってくれるなら何でもする。


 ガサッ…………


 鈍くなっていた感覚が鋭くなった。


 なに?


 何かの足跡。



「ゴブリン…………?」


 でも見たことない種類。


 ゴブリンの後ろからもう一人来る。

 

「エルフ…………?」


 男だ。

 見たことない服着てる。

 それにこの人、初めに視線が私の顔に来た。

 首輪、見なかった。

 変な人。


「エルフじゃない、私、ハーフエルフ。あなた、誰……?」


 何も言わなかった。

 視線が首輪を見ているのが分かる。

 何する気?


 痛いのは嫌だ。

 苦しいのは嫌だ。


「ごめんごめん、追手とかじゃないから。たまたま、雨宿りに立ち寄っただけだからね。雨が止んだら、出ていくよ」


 なに?


 本当に変な人。

 でも、悪い人には見えない。


 あの人は何もせずに出て行った。

 それとも、こんな汚い貧相なハーフエルフに何かする気が起きないだけ?


 警戒はする。

 今日は寝ない。

 そもそもゴブリンと一緒にいるなんておかしい人。


「………………」


 なんで何事もなかったかのように寝てる?

 それにゴブリンはどこ行った?

 この人、やっぱり変。


 もう少し見張ってみよう。

 寝ているふりかも。


「………………」


 まだ分からない。

 まだ油断しない。


「………………」


 まだ……分からない……

 まだ……油断しない……


「………………」


 まだ……まだ……


「………………………………………………」




「………………………………………………!」


 あれ!?

 寝てた!

 あの人は!!?


 もういなかった。

 本当に何もなかった。

 本当にいい人だったのかもしれない。


「うぅ…………」


 私は弱虫だ。

 死ぬ勇気もない。

 人を信じる勇気もない。

 最後のチャンスだったかもしれない。


「あれ…………?」


 気が抜けたからかな。

 体が動かない。


「待って…………行かないで…………私を助けて…………私の全部をあなたにあげるから…………死にたくない……死にたくない……」


 もう駄目だ。

 何もできない。


 体が動かなくなった。

 耳鳴りが煩くて、意識がなんだか遠くいっている気がする。


 多分、もう私、死ぬんだ。

 

 

 足音がした気がした。

 ぼやける視界に昨日のあの人が見えた。


「なに?」


 返事なんてないと思った。

 多分幻想だ。


「警戒しないで、っていうのは無理だよね」


 返事があったことに驚いた。

 あの人が帰ってきた。

 動かなかった体が動く。

 

 連れて、って言う。

 助けて、って言う。

 なんでもする、って言う!


「あー、えっと、エルフって言い伝えとかでは肉とか食べないって聞いたこともあるけど、大丈夫」


 この人は私の覚悟なんて気にせず、食べ物を出してきた。


 しかも肉!


 待て、下げようとするな!


「大丈夫、私、ハーフエルフ、肉食える。むしろ好物!」


 理性なんて何もなかった。

 体が驚くほど早く動いて、肉を掴んでいた。

 齧りついた。


「肉、上手い!」


 こんなにおいしい肉、食べたことない。

 あれ、もうない…………

 もっとゆっくり食べればよかった。


「まだあるよ」


 今度は塩漬け肉が出てきた。

 分かった、この人神様だ!

 それか空腹で私がおかしくなって見せている幻想だ!


 どっちでもいい!

 肉、食べる!

 肉、美味しい!


「それ、食べ物が無限に出せるのか?」


 この人、ヘンテコな魔具を左腕に嵌めてる。


「無限じゃない。捕獲した森猪を加工して、別空間に保存している」


 空間魔法だ。初めて見た。

 エルフには無い発想の魔法だ。

 昨日、連れてたゴブリンが急にいなくなったのもきっと空間魔法だ。


「魔物使いで、しかも空間魔術も扱えるのか、すごいな」


 この人にも興味があるけど、どうしよ、手が止まらない。

 肉をこんなに食べたの初めて。


「魔物使い?」

「魔物を使役して戦う職種だ」


 肉、美味しい。


「なるほど、でも俺は魔物使いじゃないな。ゲーマーさ」

「ゲーマー? 聞いたことない職種だ。もしかして、固有の上位職種か?」


 肉、最高。


「そんなもんだよ。ところで職種とかには詳しいのか」

「私はこれでも元冒険者、その辺の事情は詳しい」


 肉…………ちょっと落ち着こう。

 これ以上一気に食べたら、お腹壊す。

 加減しよう。


「そろそろ、名前を聞いてもいいかな?」


 名前…………


「ごめん、言えない」


 言いたい。

 この人になら、何でも教えたい。

 なんでもしたい。

 でも、私には…………


「私、名前無い」

「名前がない? でも、冒険者だったんでしょ?」

「冒険者、間違いない。でも、私、買われた奴隷だった。ご主人様、名前と防具、くれなかった。貰ったのこれだけ」


 名前は言えない。

 それ以外のことなら、なんだって教える。

 肉が貰えるなら、なんだってする。


 この人は複雑な表情をしていた。

 私にこんな表情を向けてくれる人はいなかった。

 この人の感情が分からない。


「なぁ、俺と一緒に来ないか?」

「えっ?」


 そんなことを言われると思わなかった。


「俺はこの世界のことは疎いんだ。色々、教えてほしい。それに一人より二人の方が色々と都合がいいと思うんだが」


 この世界? 変な言い方。

 でも、この人、悪い人じゃない。

 ううん、良い人でも悪い人でも良い。

 肉が食べられるなら、それで良い。

 でも…………


「でも、私、これ付けられてる。これ、ある限り、私、前のご主人様の所有物」


 あのご主人様に出会ったら、契約で強制的に従わされる。

 この首輪がある限り、私は逃げられない。


「それって魔法で拘束されているのか?」

「うん、外すにはご主人様の血か、解呪術師に頼まないと…………」


 私、一生、人前には出れない。

 出たら、奴隷に戻るだけ。

 

 でも、叶うならこの人と一緒にいたかった…………


「なるほどね…………んっ?」


 何か考えている。


 えっ!?

 なんだ!


「ひっ、モンスター…………!」


 この人が何かした。

 半人半蛇の魔人が出てきた! 


 蛇は美味しいけど、この魔人は美味しいそうじゃない。


「大丈夫、俺の召喚したモンスターだから。動かないで」


「は、はい」

 

 えっ、何?

 首、触られた!

 何する気!?


 カチッと言う音がしたと思ったら、首輪が外れた。


 えっ?

 ええっ!?


「あっ…………おぉぉ…………」


 確認する。

 首、何も着いてない。

 私、解放された?


「ありがとう! ありがとう!」


 それ以外に言葉が思いつかなかった。


「成功して良かったよ。じゃあ、改めて、組まないかい?」


 断る理由がない。

 コクリ、と頷く。


 蛇の魔人と奴隷の首輪が消える。

 変わった魔法だ。


「首輪、私にしないのか?」


 そうしないと私を奴隷に出来ない。


「しないよ。君は俺の所有物じゃない」


 それはどいうことだ?

 それじゃ、なんで私に食べ物をくれて、奴隷の首輪も外してくれた。

 なんで何も見返りを求めない。

 やっぱり変な人。


「新しいご主人様は変わっているな」

「俺はご主人様じゃない。ハヤテ、結城ハヤテだ」


 ハヤテ…………

 聞きなれない響き。


「ハヤテ、変わった名前だ。東国の者みたいだ」


「色々と聞きたいことはあるが、初めに決めなくちゃいけないことがあるな」

「なんだ、ハヤテ?」


 やっぱり何かを求めるんだな。

 でもそっちの方が安心する。

 利用される理由がないと不安。


「君の名前だよ」


 なんだ、それ?

 そんなのなんだって良い。


「名前、名前か。それならハヤテが付けてくれ」

「いいのか?」


 なんでそんなに驚く?


「構わない。ハヤテは首輪で私を縛らなかった。だから、名前で私を縛って構わない」

「どういう意味だ、それ? うーん、名前か…………」


 すっごい視線を感じる。

 そんなに悩むことか?


「リザっていうのはどうだろう?」

「うん、いいよ」


 なんだって良いよ。


「即決? いいのか?」

「うん、ハヤテの好きな呼び方で構わない。ハヤテといたら、肉が食べられる」


 ご飯を食べられるなら、なんだって良い。

 

 それになんだか、この人は私の運命を変えてくれる気がした。

読んで頂き、ありがとうございます。

もし、ハヤテとリザの物語の続きが気になりましたら、長編の『カードゲームの世界王者、英雄に間違われる~モンスターを召喚できるディスクを使って、異世界攻略。俺は無力だから戦闘はヒロインとモンスターに任せるよ~』もよろしくお願い致します。

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