その四
貴族の二人からの説明で俺が抱いた感想としては、ギルマスって苦労してるんだなって言うことと。
「貴族って暇なん?」
奇しくも、先ほどのアイシアと同じようなことを言ってしまった。
多分、魔狩りなら大体が似たような感想を持つと思う。所詮、人間の営みなんぞ強力な魔獣が湧けば吹けば飛ぶようなもんなのに、内ゲバしててどうするつもりなのだろうか。
「君達からしたらそう見えるだろうな。だが、安心しろ。暇が有り余っている連中もいるというだけだ。こいつを見てみろ、日頃くそ忙しくて眠る暇がないからごくごく少量の薬ですらぐっすりだ」
やっぱり、盛ってたのかよ。ユリアは、自分の右肩にのっかっている頭をガシガシと手荒く撫でる。ギルマスはピクリとも反応しない。
生きてる?
「とはいえ、暇してる連中も有事の際には必要なすてご……人材ということには変わりない」
「あなた今、捨て駒って言いかけなかった?」
「気のせいだ。だが、暇人どもがここの運営に関わるのは非常に面白くない。ということでだ、アイシア嬢とケイト、この大バカを助けてやってくれないか?」
ギルマスには日頃色々と世話になっている俺達は、頷く他なかった。
本人、意識ないけど。
ひとまず、なんでわざわざ俺達を今回の騒動に巻き込んだのかは、よく分かった。だから、ここからは細かいとり決めについてのお話だ。
「依頼主爆睡してるけど、問題ないのかしら」
それはその通りなのだがすげえ今更だな、アイシア。なお、ギルマスの頭は膝の上に移動させられて、髪の毛をもてあそばれている。
俺らもいるんですけどね。
「問題ないさ。なんならこいつは、先ほどの事情の説明もなしで君らに依頼しようとしていたのだから、私の方が優良な依頼人だぞ。喜んでくれ」
うーん、当事者の意思。
まあいいや。
「それで、今回の件は俺たち二人だけに出しているのか?」
「いや、他数名にも依頼している。本当はもっと人数を割きたいところだが、いかんせんあっちの貴族側の人間もいるかもしれないからな」
あー、そうか。今回は人間側のゴタゴタも関わるから、裏切りとかも考えないといかんのか。めんどくせえ。
「知恵を他から借りるのはありか?」
「そこは相手を見極めてからで頼む」
「了解了解」
今回は基本アイシアと動くことになるので、その点は心配いらないだろう。隣から小声で、「最悪脅せばなんとかなるわね……」とか聞こえてくる。やだ、物騒。
「じゃあ、私からもひとつ良いかしら」
「なんだ?」
「あなたは、なんでこっちにきてたの?」
「どこぞの魔狩りから、『ギルマスにひどいことされた!』という垂れ込みがあって」
ユリアとアイシアが俺の顔を見てきた。照れるぜ。
「クリスに嫌がら……監査のためにしょうがないからこっちに来てやったら、常々私を苛づかせている貴族どもがこっちのトラブルに油断しきっていて、楽しくてつい全く関係のない十年前のここら辺の魔獣の生態調査表を送り返していたんだ」
相手の貴族可哀想……。いけすかないギルマスの粗をつつこうとしたら、なぜか性悪女がいましたとさ。
「あなたも、暇なの?」
「一緒にしないでくれ。私は有能だから雑事などすぐに終えてしまうんだよ」
膝の上のギルマスがすげえ不満そうに眉間に皺を寄せてるんだけど、聞こえてるんじゃねえの。
◆
「じゃあとりあえず」
「そうね、まずは」
「「研究所から」」
そうなるわな。魔獣関連ならあそこに聞くのが一番だ。
会館から徒歩五分圏内の変態どもの巣窟へいざ行かん。