その三
「がだがたうるせえな……」
「そんなにか?いつもこんなもんだろ」
「人間贅沢を覚えると堕落するんだわ」
移動用の馬車はあっちこっち揺れている。いつぞやの竜の巣の時と違って、普通の荷台なのでずっとごんごん色んな所をぶつけまくっている。あー、アイシアを無理矢理でも連れてこれば……いやあいつ普段は今の俺たちみたいに、乗り合いの馬車使ってるな。
今回の道連れこと、マッドの被験者な大剣の彼くんは、快く羽集めの同行を引き受けてくれた。何だかんだで今回初めてまともに仕事をすることになって道すがら色々と話してるのだが。
「ビックリするくらい、普通じゃん」
「普通で悪かったな。…………いや悪いか?」
悪くないよ。むしろ、めっちゃくちゃ誉めてる。何故なのかはよく分からないのだが、魔狩りってベテランになればなるほど変な奴だけが残り続けていくから。多分、まともな奴ほど、とっとと再就職先を見つけるからだと思う。つまり残りは……。
悲しくなってきたから、目の前の普通の魔狩りを弄ることに決めた。
「ダーリンくん」
「てめーからダーリンって呼ばれる謂れはねえ!」
「普段はマッドから呼ばれてるっていう理解でオッケーか?」
「ぐっ…………」
呼ばれてるんだ。きゃー。
「その目をやめろ!会館付きお前性格悪いだろ」
「俺ほど性格の良い魔狩りはいねえよ。あと、会館付きじゃなくて、ケイトだ」
「あ、ああ、悪かったケイト。俺の名前はモ」
「それで、だー君」
「名乗らせろ!だー君ってひょっとして、ダーリンをもじったのか!?全然上手くねえんだよ!」
やべえ、くっそ楽しい。
あと、名前もちゃんと聞いた。モルトって言うそうだ。
◆
モルトの反応が良いので、ボケ倒したいという欲望がわいてこないこともないが、森が近づいてきたのでそろそろまともな話も始めるべきだろう。
「それで、モルト。なにか質問はあるか?」
「その質問っていうのは、ちゃんとしたやつだよな?」
当たり前だろ。ふざけてるのか。
何故かモルトは、こんなにも真面目な俺を半目で睨み付けながら。
「手順は、普通の羽集めと同じで良いんだよな?」
「そうだな。俺が警戒役で、モルトは」
「かき集め役だよな」
うなずいて返事する。
羽集め、特にヨルネズクの場合は、二人一組で行うのがセオリーだ。ヨルネズクは、自らの巣で羽の手入れをする習性がある。そのときに、抜けた羽を巣に溜め込むので、それを拝借させていただくのだ。
注意しなければならないのは、ヨルネズクの討伐は今回の依頼に入っていない──基本的に討伐はしない──ので、本当にこっそりと巣から盗まなければならないということだ。
なので、夜行性のヨルネズクが巣にこっそり侵入し、一人が羽をかき集めて、もう一人がヨルネズクを警戒するという必要があるのだ。
「だから、到着して最初にやるべきは巣探しだな。そこで手間取らなきゃいいけど」
「そこは大丈夫だぞ」
何故にそこまで自信満々。
「常闇の森、最近ヨルネズクが増加しすぎてるらしいからな」
「それはそれであかんやろ」
これ、報酬の交渉して討伐もした方が良いんじゃねえのか。
そうこうしているうちに、馬車は森へと着く。
ほんじゃ、既に仕事が増加する気配が漂ってるけど、一生懸命ヨルネズクを探しましょうか。




