年度魔獣動向白書 竜種及び環境種+おまけ掌編
最終話と言ったな
あれは幻覚だ
【竜種】
厳密には、明確な基準はない。魔獣として、解明が進んでいないものがここに分類される。
命名理由:かつての娯楽小説で描かれていた伝説の生き物。
武の貴族の頂点は、通称『竜卿』と呼ばれているが、これは初代『竜卿』の活躍に際していつしか、その最強の生き物の名前を冠するようになったという謂れがある。
特徴:分類上の特質のため、未知の種族魔法を使うものや、そもそも一個体しか発見されていない魔獣なども数多く存在する。魔狩りにとっては、対抗策も不明という点で、手強い存在であるといえる。しかし、必ずしも強靭な個体ばかりというわけではないのであるが、竜殺しの称号は魔狩りにとって特別なもので、人類トップクラスの実力者であるということを示す。
分類方法が特殊なため、竜種であった魔獣が再分類される例も多くある。もし、竜種とされている個体を生け捕りあるいは綺麗な状態で仕留めることができれば、それは魔獣学研究の時代を押し進めるだろう。
※現在の竜卿たるアイシア・ディ・グノルは、少なくとも100体以上の竜殺しを達成しているとの噂があるが、現在の年齢及び活動時期から鑑みて頻繁に竜種に遭遇していなければならない計算となるため、真実ではないと考えられる。
生息地:不明(逆にいえばどこにでも存在する)
《初代竜卿について》
『竜』の名を冠するにあたって、当然竜種の討伐を成し遂げたとされている。
竜卿のシンボルである白の武器は、初代が討伐した『白竜』がモチーフである。
白竜に関して、現時点でら白い竜種個体が発見されていないため、その逸話の真偽は定かではないが、歴代竜卿の活躍が色褪せるということは決してない。
白の武器は竜卿以外は、竜卿の許可を得た者だけが使用可能であり、これまでの歴史においても使用した魔狩りは片手で数えられる程度しか確認されていない。
※白龍と表記されることもある。
【環境種】
地形、気候、植生、生態系、それら全てを変えうる存在。存在そのものが天災。
そのあまりにも強大な能力、肉体などから、あらゆる、魔獣あるいは動物では、ないと考えられる。
その強大すぎる存在は。
時には我々の心の拠り所となることもあるのかもしれない。
環境種については、ごくごく最近も新たな進行が認められた。この際は、個体名として『文明喰らい』が当てられたが、これは実に三体目である。端的にその脅威を表すためには的確な名付けかもしれないが、知の貴族にはほんの一匙冗句を解する心も必要だと愚考する。
おまけ ネーミングセンスとは
クリストファ・ディ・ミネルバことギルマスは、凝り固まった背中の筋肉を解すために大きく伸びをする。
最近、年齢のせいか腰痛なども無縁ではなくなってしまった。そろそろ温泉療養とかに行ってもいいかもしれないと思わなくもないのだが、そんな余裕が到底あるとは思えない。
しかも近頃はギルドマスターとしての業務に加えて、王都の貴族連中との予算折衝の時期が迫っている。日頃は、会館一階の受付付近のふかふかの椅子で書類と戦っているのだが、あまりにも仕事が山積みになりすぎて業務に支障をきたすということで、執務室(椅子は固い)に引っ込まざるを得なくなってしまった。おのれ書類、おのれ貴族。
それに加えて。
「ユリア、なに今年度の魔獣白書ビリビリに引き裂きやがってるんですか!」
「ああ、クリストファすまんな。思わず手が滑ってな」
何故か執務室に居座ってやがる元婚約者殿が、その上必要書類をバラバラに破りやがった。
「そもそもなにしに来たんですか」
「昨日理由は説明しただろう。監査だ」
「それはもう既に終わったでしょうが。意外と忙しい身分なんだから、とっとと王都に帰れ」
そして、今バラバラにした書類を片付けろ。
ギルマスの圧力に屈したわけではないのだろうが、彼女は静かにほうきとちり取りを手に取り、掃除を始めた。
「それで、何が書かれていたんですか?」
「いや、だから手が滑ったと」
「そうなんですか。てっきり『冗句を解さないネーミングセンス皆無の知の貴族』とでも書いてあったのかと思いました」
「既に読んでいたな、貴様」
ひんやりと執務室の温度が下がる。ユリアが固有魔法を展開したのだ。
「そりゃ、仕事ですから読むに決まっているでしょうが」
「読むな、そして私のネーミングセンスは悪くない!」
ギルマスは、生暖かい目を名門貴族に向ける。
ユリアはキレた。
執務室が半壊し、そのお詫びにユリアはギルマスを手伝う羽目になり、その結果ギルマスはなんやかんやで休暇が取れた。
何故か、その休暇がユリアと重なったのは、また別の物語で、温泉旅行したのも別の物語だ。