その十七
当然だが、俺は死にたいというわけでは、ない。じゃなきゃ、飛び降りてない。つーか、死にたいのならわざわざこの女を背負ったりしない。
まあ、一応の勝算があったのだ。
「うおおおおおお!」
「───!」
声をあげて、木の幹を蹴りつける。
ドン!という衝撃と共に、イシバミガラスの巣があった隣の木の樹冠に突っ込む。
この木の太い枝あたりに着地できるのではないかと期待していたのだが、残念ながら目論見は外れてしまった。
存外にしなった枝は、俺とアイシアを一度空に跳ねあげる。
「「ああああああああ!?」」
そして、二度目。多少落下速度を削ぐことには成功したとはいえ、残念ながら一回目で半分くらいその枝は折れていたらしい。
ばっきり、いった。
最初に飛び降りた木の半分くらいの高さとはいえ、余裕で即死できる高さから、俺たちは地面に向かって一直線だった。
◆
「ぜったいにぶっころす」
「はい、すんませんでした」
「馬鹿なの?頭悪いの?」
結論から言えば、二人とも無事だった。無傷ではないけど。右腕が痺れてる感じがする。
アイシアが、念のためと思って残していた刻印つき爆弾と、かろうじて使用できた固有魔法を駆使して、落下の勢いを削いでくれたのだった。
そして、彼女は今めちゃくちゃ怒っている。本格的に、一人で立つこともできなくなったらしく、俺の背中の上でだけど。
足に怪我をしなかったことを幸いに、俺は可能な限り全力で走っている。先ほどの爆発で、魔獣どもが集まってきたのだ。
生き残るの難しすぎね?
脳裏に、弓を捨てなきゃよかった、という考えが浮かぶがそれは無い物ねだりというやつだ。そもそも、あの弓背負ってたらこの女を担げない。
「…………ねえ、ケイト」
「あん?ってうわ!」
あっぶね!あのイノシシっぽい魔獣、いきなり突っ込んできやがった。
間一髪で右側に飛んで、なんとか回避する。ついでに、後ろから追いすがってくる別の魔獣どもに突進を加えてくれた。ラッキー!
「ねえ」
「なんだよ」
「もしもの時は、私を置いていきなさい」
俺は一瞬立ち止まりかけて。
再び速度を戻した。
「ねえってば!」
「うっせえバーカ!」
こいつはやっぱり、バカだ。こんなこと言われて俺が置いていくと思ったのか。
第一。
「お前、ひょっとして二人で逃げてたら助からないとか思ってる?」
「だって、確実に足手まといは、私だもん」
「別に邪魔にはなってねえよ」
「嘘つき。少なくとも、私がいなければ、あなたの武器は持ってこれたもん」
うん、なんかアイシアが弱気モードに突っ込んでるわ。珍しい。
「それに、実際にあなたの速度、落ちてるもん」
「それはそうだが、本気で俺が無策とか考えてるだろ」
「さっきのあなたの策は、適当に飛び降りるだけだったもん」
もんもんやかましいな。
そして、こいつ俺の事めちゃくちゃアホと思ってやがる。
俺は、倒木を飛び越えた。そこで、ガクンと膝の力が抜けてしまう。
「……っぶねぇ」
「ほら…………」
うるせえ。
このバカが自分から勝手に背中から降りないように、両の手できつくアイシアの脚を掴む。
「絶対に離さない」
「でも」
「それに!」
そろそろだろう。
天から矢が降ってくる。
当然、それは俺たちを狙ったものではなく。
ズガガガガガ!と音を立てて魔獣どもを一掃した。
「竜卿様、英雄殿!第一隊、お二人を保護、第二隊掃討、かかれ!」
「「「はっ!」」」
騎士団と魔狩りの連合部隊が到着。
それは、人類が砦の防衛に成功した事の証明であり。
「な?」
「…………そうね、そうだったわね。私、また一人で何とかしなきゃって思っていた」
無事に、今回の依頼を達成したことの証明だった。
次でひとまずラスト