針集め編顛末
俺は、新築となった我が家でふて寝をしていた。調査のもろもろや事情聴取、森から帰ってくるなりの緊急依頼などに忙殺されている間に、匠たちが仕上げてくれていたのだ。あー、新しい木材の香り……。
「おじゃましまーすって、うーわ、辛気臭っ!」
「勝手に家に入ってくんな、帰れ」
「まだ、卵のことでそんなことになってるの?」
そう、アイシアの言う通り、俺はエンペラーの卵でこんなことになっている。卵を売るどころか、確保することすら忘れ去っていたのだった。超高級食材だったのに……。調査の標本にされるなんて……。
「あれから、別の討伐依頼も受けてたのに、まだ落ち込んでるの?」
「うるさい、つらいもんはつらいんだよ」
確かな稼ぎがそこにあったのに……。それも、うっかりミスで逃すなんて思いもしなかった。
「それで、何の用だ」
「手伝ってもらった報酬を持ってきてあげたのよ」
「報酬?たしか、しばらくの仮宿の提供と、数日の飯と、素材を自由にしていい権利だけだったと思うが」
ああー、余計につらくなる。結局今回の俺がアイシアを手伝った報酬は、実質的になかったのだ。まず、しばらくの仮宿に関しては、調査やら事情聴取やらで野宿なり会館に泊まるなりで、実質針集めの前日のみ恩恵を受けた。そして、食事に関してはすでに何度かおごってもらっている。そして、肝心の素材はすべて標本にされてしまったのだった。
「さすがにかわいそうに思ったから、儚く美しいこのアイシアちゃんが手料理を食べさせてあげようと思ったのよ」
「自分で儚く美しいとかいうんじゃねえよ。あと、儚いってのは、存在感と生命力にあふれてそうな奴のことをささねえよ」
「あら、エンペラー種の卵はさすがに無理だったけどハナタカリ種の卵を用意したのにいらないの?」
「すいません、生意気なこと言いました。ありがたく報酬をいただきます」
ハナタカリ種は草食の飛針類で、その卵は香りエンペラー味ハナタカリと呼ばれるほど、おいしいものなのだ。そして、何を隠そう俺の好物でもある。調理にそれなりの技術が必要になるのだが、その点アイシアには問題がない。
「それじゃあ、台所借りるわね。あと、食器も」
「うちで作るつもりなのか?というかお前まさか、ここで飯食うつもりなのか?」
「あら、何か問題あるかしら?」
心底不思議そうな態度のアイシアに、何も言い返せなかった。
あと、卵は大変おいしゅうございました。