その十五
一体どうすれば良いのだろうか。
何度目になるのか分からない自問を繰り返す。
俺が環境種にダメージを与えられるのは、白の矢ひとつだけだ。
だが、姿が見えないモノに照準を合わせられるはずはない。
「くそっ」
太陽が昇りつつあることで、迫り来るタイムリミットがはっきりと分かる。
一か八か、当てずっぽうで狙ってみるか?
「それはだめだ」
もし、当たれば万事解決だがあまりにも僅かすぎる可能性に、命を預けるわけにはいかない。特に今回は俺一人だけの話では、ない。
ひくりと変な音が自分の喉から出る。
──せめて、矢を番えなければ。
暗い。手が震える。
上手く呼吸ができない。全ての人間の命が俺に絡み付いてくるようだ。
──あれ、俺は何をするんだったか。
くらくらする。
ここはどこだ。ふわふわする。
かちゃんと、物が落ちた。
──拾わなければ……何を?
空気が足りない。思考がまとまらない。今にも倒れてしまいそうだ。
◆
奇跡が起きる。
その時。
ポツリポツリと、首筋に水があたった。
それは、文明喰らいが作り出す環境下では、到底あり得ない現象だ。そして、ほんの一瞬のこの奇跡は、俺になすべき事を思い出させるには充分だった。
──そうだった。
水の冷たさが、俺に体温を取り戻させる。
落としてしまった白の矢を拾い、大弓に番える。
──姿は……見える。
刹那の奇跡のお陰なのか、襲いくる砂と木々の境目の上空に揺らぎが見える。まるで、水面に石を投げ込んだで出来た水紋のように、陽光がはねかえる。
それは、形をなしていた。一本の巨大な紐のような。細長い体躯に、数えるのもバカらしくなるほどおびただしい量の翼。
これが環境種、文明喰らいの姿なのだ。
──弦を引き絞る。
何度も、それこそ何万回も繰り返してきた動作だ。まるで弓と一体化したように、流れに身を任せるように。
──狙いは。
ああ、分かった。
環境種は遠くはなれているはずなのに、その輪郭がくっきりと、はっきりと見える。まるで、空から俯瞰しているように。
──これなら、外す方が難しいな。
環境種は、非常にゆっくりと動く。
──ここだ。
不思議な感覚だ。矢を放つはずなのに。
必ず的中するルートが目に見えている。
──少しだけ、足りないかもしれない。
漠然とそう思ったので、自分の奥底に眠っているものを、矢に籠める。
──今だ!
環境種と俺を繋ぐ経路に、白の矢を押し込んだ。
そして。
俺が放った矢は。環境種に吸い込まれていき。
『Syo』
甲高い音。
それは、不快なものを踏みつけた時の叫びのように聞こえる。
やがて、それは身動ぎ。その進行方向を、変えた。
環境種、イメージ的にはスカイフィッシュ