その十三
俺とアイシアが最初にするべきだったのは、襲いかかってくる森の大型のマモノ化した魔獣の対処だったのだが、その必要はほとんどなかった。
既にほとんどの連中が逃げ出しているのと、
「シィィィィィ!」
『Gyuoooooaaaaa!』
アイシアが強すぎる。いや、知ってたけども。
たった今切り捨てた双頭のクマ─多分もとはオオモリシロ─で、六体目だ。
俺が手を出す暇すらない。
「どこまでも守りますわよ旦那様」
「やめてくれ……鳥肌が」
「なんでよ!」
旦那様とか、誰かに付き従うがらじゃねえだろお前。
今回の作戦で、鍵になるのは俺とシノアだ。ならば、ユリアをともかく残り二人は何のためにこちらにきたのか。答えは単純なものだ。
「一体たりとも通さないから安心しなさい」
「世界一豪華な盾だな」
この世で最も硬くて強いと確信できるほどの。
◆
人の利、地の利という言い方を、武の貴族出身の連中はすることがある。難しい理屈はよく分からないが、人の利はすなわち人々がどれだけ連携して志をひとつにできるのか、地の利は天候、地形といった要素をいかに有利な状態で戦いを押し進められるからしい。
人の利、この点は大丈夫だ。少なくともこっちに参加してる面々は、目的は合致している、と思う。ユリアはちょっと微妙なところかもしれないが、本当に不味ければギルマスがついてこさせる訳がない。
ならば、地の利は確保しなければならない。まず、天候。こっちは無理。今も地面が割れるような音が響いていることから分かるように、環境種の力は絶大だ。せめて地形的な有利は確保しなければならない。
俺の武器と今回の作戦からみて、求めるべき地形は何よりも高所だろう。
「ここもいつまでもつか分からないけどね」
「大丈夫だ。そもそも、接近された時点で俺たちの敗けだから」
ここらでもっとも高い場所にたどり着いた。
うっそうと生い茂る木々の中でも特別に古く、大きい樹。その天辺へと駆け上がる。
『Ka』
「悪いな」
上空から巣を守るためにこちらを狙おうとする魔獣に俺は矢を放つ。
イシハミガラスは、絶命し地面へと落ちていった。
さて。
俺はこつこつと軽く足場を叩く。十分な硬さがある。
イシバミガラスの巣は、特殊な分泌液で木の枝などを固めて作られており、強度は抜群である。
「上がってきて大丈夫だぞ」
バフンという音と共にアイシアが一気に飛び上がってきた。一応着地を手伝う。
「こんなところで迎え撃つの?」
「特等席だぞ」
俺は、大弓のための台を組み立てつつ、親指で背後を指し示す。
「…………!」
アイシアの息を飲む音が聞こえた。
無理もない。
俺の親指の先には、ゆっくりではあるが確かに迫り来る砂漠とそこに適した魔獣共が、太陽光に照らされているのだから。
もはや、猶予はない。