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その十一

知の貴族の頂点は王であり、武の貴族の頂点は竜卿──アイシアだ。そして、知の貴族で真面目な面々は内政を司り、武はアイシアを見れば分かると思うが暴力を司る。


「そんな物騒じゃないわよ。見て、この細腕」


うわー、ほそーい。軽く握れるー。

というより、


「俺の考えを勝手に読むなや」

「口に出てるのよ」


え、まじで?


「あなたそういうところあるからね」


そう言った彼女は、座り心地の良いようにモゾモゾと動いて、俺にもたれ掛かってきた。

丁度良い位置に頭があるので、そこに顎を置く。

俺たちは今、武器庫での会議を終え、寝床になっている広間の壁際に座っている。


「シノアのこと、驚いた?」

「ああ」

「……ごめん、頭痛いから顎置きにしないでくれない?」

「……うん、俺も話しづらいからやめとくわ」


ちょっと動かして、右肩側の方に首を傾ける。


「まさか、シノアが魔法使いだったとは思わなかった」


魔法使い──それは、知の貴族の切り札、らしい。内政を司る王とは別に、ある意味で学問的な方の知の貴族の頂点の呼称だそうだ。魔法、それは俺たちの固有魔法を越えた、世界のあまねく存在に干渉しうる万能の力らしい。その代わりシノアは固有魔法を持ってないけど。


「確かに私と違って、有名じゃないからね」

「やっぱり、隠されてたのか?」

「いや、そんなことないわよ。ただ単に、大々的に喧伝するのを、シノアの実家がめんどくさがってるのよ。ほら、あの娘の家不真面目な方の貴族だから」


そうなのか。いや、まあそんな気はしてたけど。研究所に勤めてるやつらは、大体そんな連中の集まりだし。

俺は人差し指で、アイシアの頬をつつく。もちもちだ。


「お前に対抗できる存在なんて、この世にいたんだな」


それも、力で。

そうなのだ。シノア・ド・ディグディグは、知の貴族にして暴力でこの女に対抗しうる、貴族どものもうひとつの切り札らしいのだ。


「あなた、私のことなんだと思ってるの?」

「お前、逆に聞くけど、マモノ化してる竜種を素殴りで空から引き吊り下ろせる馬鹿、他にいると思ってんのか?」

「…………ふふふふ」


おい、目をそらすな。

この女、戦闘面においては、本当に規格外の領域にいるのだ。他の面は、まあ、うん、俺の口から言うのは恥ずかしいので。


「ご存じの通り、あなたの可愛いアイシアちゃんは、最強な訳なんだけど」

「俺のもんじゃないだろ」

「可愛いのは否定しないんだ」

「………………」


うっさい。

目の前にある金髪を、ぐしゃりと撫でる。


「正直じゃないんだから」

「話し戻せ」


暴力の化身である女は、俺の顔を見てくすくす笑いながら、


「そうね。まあ、でも考えてみなさいよ。私みたいな存在の抑止力を開発しようとするのは当然でしょ?」

「そこまでなのか?」

「実際に戦ったことはないけど、あの娘仕度さえすれば王都くらいなら私よりも効率よく壊せるわね」


うわあ。


「だったら、魔狩りやれば良いのに」

「そこは、本人の特性ね。私は望んでこの力を身に付けたわけだけど、あの娘達は固有魔法を研究する過程でうっかり使えるようになっちゃったんだからね。魔獣に使うよりも、それを調べたいんでしょ」


そんなことを言うこの女は、生まれたときから力を手に入れることを望んだわけではないだろう。だが、そうあることを求めた。これが、こいつの本当の強さだと改めて思う。

抱き締める手に力が入る。


「………な、なによ、急に」

「んー、アイシアはやっぱり強いんだなって」

「~~~~っ。あ、明日私たち、早く出るんだから、寝るわよ」

「お、照れてる」

「うっさい!」


まあ、たまにはこいつを振り回すのも良いだろうなんて、ニヤニヤしていたらアイシアが壁に手をつけて、


「いや、ちょい待て!洒落にならんから!ここ、崩壊するから!」

「あははははははははは」


ごめんって。もう、今日はおちょくらんから、まじで刻印使おうとするのやめて!

あ、お前ら良いところに。こいつ羽交い締めするの手伝って!

なんとかアイシアをなだめて、女性陣が固まっているらへんに押し付けたあと、俺は野郎共から蹴られた。なぜだ。

とある魔狩り「こういうときに女と過ごすってのは、よくあることだしなんなら俺もさっきまで過ごしてたから良いんだけど。なんで、最後の最後に痴話喧嘩の片付けをしなきゃいかんのだ」


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