その八
「まったく……何をやっていたんですか」
「嘆かわしい……」
「「いや、あんたらのせいだから!」」
結局、俺とアイシアは魔狩り含む職員達によって武器庫まで運搬された。もう流石に足のしびれも治まっている。
「それで、お二人は昨晩何やら屋上でゴニョゴニョしていらしてたんですか?」
「あら、シノア久しぶりね」
研究所の紫女は今日も元気なようだ。目がキラキラしてやがる。そういえば、俺がこの女の顔を見るのは竜の巣以来か。
「ふぉへへ、はひひひんふぁふぁ」
「なんて?」
「ろくでもないことよどうせ」
シノアは、アイシアに口を捻られながら喋っているのでなにも分からん。通訳できそうなやつは、今は無言タイムらしい。昨晩ぶりの大男は、シノアの襟元をつかんでひっぺがした。保護者的にアウトな発言だったみたいだ。いや、ほんとになに言ったの。
そんな俺たちを静かに見つめていた男は、
「さて」
一言、呟いた。室内の空気が変わる。俺たちのー会館の長が声を発した。
「戦力が、ようやく揃いました」
そう言って、ギルマスはぐるりと室内を見渡す。領主、火槍使い、紫髪の研究者、弓使い、竜卿。それが、ここにいる全員だ。
「それでは、我々による環境種からの撤退作戦を開始しましょう」
それが、既に敗けが確定している人間の、魔獣との闘争の始まりを告げる合図になった。
◆
「それでは、まずは情報の共有から」
机に二枚の紙を広げる。一枚は、ここら周辺の地形図で、もう一枚は人間の集落が記されている。
「我々は今ここにいます」
ギルマスは砦の位置に丸をつけた。
「ご覧の通り、ここを抜かれたら最低でも6個の都市が蒸発ますので」
「さらっと言うのね……」
「事実なので」
ギルマスは淡々と答える。ユリアは、腕を組んで目を閉じている。
「そして、この地形図のこちら側はもう役に立ちません。それにともない、こちら側の村は跡形もなく消えたことが確認されました」
ギルマスは、地形図の半分を隠した。同時にもう一枚の集落が記されている資料の右側半分を塗りつぶす。
部屋に集められた全員が、ギルマスとユリアを除いて、目を剥いた。
冗談と思いたいが、ギルマスの表情がそれが真実であると告げている。
「これが、今回の環境種の持つ力の一端です。ここで、皆さんに私から言っておかなければならないことがある」
ギルマスは、クリストファ・ディ・ミネルバは、俺たちひとりひとりと目を合わせる。そして、
「今回ばかりは、命の保証はありません。作戦に参加するかは、皆さんの判断を尊重します」