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「こんなに早く女王二匹を片づけられるとは思っていなかったわ」
「は?」
一撃で女王を討伐するというとんでもないことを成し遂げた女は、針を回収しながらそんなことを言った。
「まだ、一匹目だぞ?」
「え、じゃあなんで、あっちの方がすぐに自壊したのよ」
飛針種は、女王が継承しない限り女王個体が死ぬことがあれば、その巣の個体はすべて自壊する。潔いと取るか、あきらめが早すぎるというべきかは悩むところだ。
アイシアは、それで俺が片方の女王を素早く討伐したと思ったのだろう。
「本当に自壊したのか?」
「いくら私でも、あの数を全滅させるのには、もう少し時間かかるわよ」
アイシアは、手段を選ばなくていいなら、一瞬だけどねと、肩をすくめながら付け足した。
それはそうだろう。針集めの厄介なところは、一匹一匹から丁寧に針を切り飛ばさなければいけないことだからだ。
「ということは……」
「何かわかったの?」
俺は、先ほどやたらとテイマー個体の数が多かったことを思い出した。まさかとは思うが、つじつまは合う。
「アイシア、試しにここで一発爆破してくれ」
「わかったわ……あなた距離は取らなくていいの?」
「ああ、耳栓はちゃんと用意してある」
「そういうことじゃないんだけど」
「多分、大丈夫だ」
納得のいかない様子だが、アイシアは石ころを投げて爆破した。
さて、本来ならこれでもう一つの巣のソルジャーとテイマーが、こちらに向かってくるはずなのだが……。
動きはなかった。俺が警戒を解くと、アイシアも大丈夫だと判断したようで、体をわずかに弛緩させた。
「どうなってるのよ」
「さっきの巣の方にやたらとテイマーがいたんだよ」
「テイマーが?……って、まさか」
察しのいいアイシアに、俺はうなずいて肯定の意を示す。
「多分、もう一個の方の巣は、丸々従えられてたんだよ」
「信じられないけど……最初からおかしかったものね」
そうなのだ。まずエンペラーの巣が隣り合っていたこと自体が、異例なのだ。だが、すでに縄張り争いの時点で、片方を完全に従えていたのなら。
「それでも、どうして片方は自壊しなかったのかしら」
それは、確かに飛針類の生態から考えても不思議だ。だが、実際にその事象が引き起こされていたのだから、理由は必ずある。考えられることとしては、
「大移動の時点で、争いがあって一番最初に女王個体を撃破、そんで継承させた?」
「そんなことできるのかしら?」
「さあ?」
「さあってあなたね」
「そういうことをしっかり考えるのは、会館に居座る学者連中の領分だろ。俺は、可能性を言っただけだ」
「それもそうね」
難しいことを考えるのは、少なくとも今やるべきことじゃない。なので俺たちは、
「会館に連絡するのと、この巣の保存だな」
「なるべく早く終わるといいわね……」
おそらく長引くであろうこの後の雑事にうんざりしながら、とりあえず地面に腰を下ろした。
ん、なんかわすれてるような、まあいいか。